作品情報 2014年日本映画 監督:中村義洋 出演:井上真央、綾野剛、菜々緒 上映時間:126分 評価★★★★★(五段階)鑑賞場所109シネマズグランベリーモール、鑑賞日3月29日 2014年劇場鑑賞48本目
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【ストーリー】
美人OL三木典子(菜々緒)が国定公園の山中で何者かに殺された。勤務先の商品「白ゆき石鹸」にちなんで、「白ゆき姫殺人事件」とマスコミやネットは大騒ぎになる。テレビ局の契約社員、赤星(綾野剛)は、元カノの里沙子(蓮佛美沙子)が典子の後輩社員だったことから、ワイドショーの取材に乗り出す。
赤星は里沙子らから、事件の晩から同僚の地味なOL、城野美姫(井上真央)が姿を消し、社内では犯人ではないかといわれていることを聞き込む。次々と美姫の怪しい行動について証言が集まる中、ネットで彼女の実名が書き込まれ、騒動はさらに大きくなる。果たして犯人は美姫なのか。それとも彼女は冤罪なのか。
【感想】
よく、映画やドラマで過熱する報道合戦とか、ネットの悪意というものがでてきます。しかし、本作ほど、それをリアルに描いた作品というのは見たことがありません。たとえば、ネットを批判する作品では「誰も守ってくれない」(08年)なんて駄作がありました。そこに登場するネットユーザーは、ある意味ストーカーのような連中ばかり。逆に「電車男」(05年)のネットユーザーは基本的には善人ばかりでした。
しかし、本作ででてくるネットユーザーは、どこにでもいる普通の人たちです。たとえば、美姫の学生時代の親友、みのり(谷村美月)は、美姫が殺人なんておかすわけがないと、テレビ局に抗議したり、ネットで彼女の擁護をはじめます。ところが、みのりの書き込みが一番たちが悪く、美姫の個人情報をさらしてしまうのです。自分が正義と思い込んでいる人たちの曲がった行動こそ、ネットでは危険であるという現実をよくあらわしてくれました。欲を言えば、ツイッターだけでなく2ちゃんねるなどネットでも炎上してそうですが、そこまで手を広げると拡散してしまうため、ツイッターに絞ったのは正解でしょう。
赤星がツイッターを使っているというのも実に現代的です。英米ではマスコミの社員が、自社で報道するよりツイッターに情報を流すことが大きな問題になっています。日本でも、事件事故が起こると、関係者に報道機関のツイッターが情報提供を求める姿も当たり前になりました。さらに、匿名にしていることをいいわけに、特定の人物を容疑者扱いするワイドショーの姿勢というのもうまくできていました。生瀬勝久演じるキャスターが本物そっくりであり、元警視庁捜査1課長なる人物にとんちんかんなコメントを出させるなど、映画をみているのでなく、リアルにテレビをみているように思えました。
ミステリーとしても、ミスリードがうまくできていました。人間の証言は自分の都合の良いようにねじまがるし、悪意がなくても、無意識に記憶が改ざんされてしまいます。本作ではAという証人とBという証人の証言に食い違いがあるというだけでなく、背後の小芝居も、証人の回想シーンによって微妙に異なるのです。たとえば、予告編でも流れていますが、事件直後に美姫が駅の階段を駆け上がって電車に乗り込もうとするのを同僚が目撃するシーン。これは、同じシーンなのに、同僚の証言と美姫自身の回想では、フォームがまったく違うんですよね。そういう細かなところですら、記憶や証言があてにならないのなら、自分に不利益になるものだったら、どうなるのか。人間の無意識の悪意というものにぞっとさせられました。まさに、一瞬たりとも見逃せない作品です。
クライマックスで、ネットやテレビといった現代人が使っているコミュニケーション方法とはまったく違った、古来のコミュニケーション方法が取られる場面があります。これが実に効果的であり、人と人の気持ちがわかりあうのには何が重要なのか、つくづく考えさせられました。
配役は脇役にいたるまで、ぴったりとはまってます。井上真央がすっぴんに近く、スターオーラーを消しており、菜々緒の人工的な美人顔とは好対照。井上は、結構、いろんな役柄にチャレンジしており、すごいなあと思いました。また、綾野のうすっぺらいテレビ局員役はもとより、女に手の早いくせに小心な上役の金子ノブアキ、噂ゴシップが大好きなOL役の小野恵令奈など、人物描写が実にリアル。そして、貫地谷しほりがさすがの演技。中村義洋監督作品について、僕は好みが分かれるのですが、本作ははまりました。
なお、ラストシーンで、ある登場人物がニヤリと笑います。その笑顔で、この登場人物は、人間的に嫌なやつだと確信しました。もしかして、事件の絵図すらこの人物が描いていたのではないかとさえも、疑ってしまいました。本当にこの映画をみていると、どの描写も裏を感じてしまいそうで、人間が悪くなりそう。でもこれが現代社会なんですよね。
井上真央は幅広い演技を見せますね
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