作品情報 2013年アメリカ映画 監督:ライアン・クーグラー 出演: マイケル・B・ジョーダン、メロニー・ディアス、オクタヴィア・スペンサー 上映時間:85分 評価★★★★★(五段階)鑑賞場所ヒューマントラストシネマ有楽町、鑑賞日4月25日 2014年劇場鑑賞58本目
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【ストーリー】
2008年12月31日、サンフランシスコ郊外に暮らす22歳の黒人青年オスカー(マイケル・B・ジョーダン)は、恋人のソフィーナ(メロニー・ディアス)、幼い娘タチアナ(アリアナ・ニール)とともにいつも通りの朝を迎えていた。
その日は母親のワンダ(オクタヴィア・スペンサー)の誕生日であり、オスカーはワンダにおめでとうと電話をかける。何気ない幸せな一日が始まった。彼にとって、それが人生最期の日だとは思いもよらなかった…。
【感想】(ネタバレ)
昨年から今年にかけて、黒人差別の問題を取り上げる映画が多く登場し、オスカーを受賞した「それでも夜が明ける」をはじめ良作が出ており、米国の歴史の暗部に暗然としました。それが、黒人大統領となった現在ですら、黒人差別が歴然と残り、無抵抗の青年ですら虫けらのごとく殺される現実に暗澹となります。射殺した警官は、白人だけの陪審員により殺人ではなく、傷害致死とされ、わずか懲役11月ですみました。なんともやりきれない事件です。冒頭に駅の乗客が携帯電話で撮影した実際の事件の映像が流れますが、なんのためらいもなく、白人警官が射殺するシーンにおぞましさを覚えました。
しかし、映画ではそのことを非難するのではなく、オスカーというどこにでもいそうな青年の最期の一日を淡々と描きました。幼い娘を溺愛し、黒人白人にかかわらず気さくに声をかけ、見知らぬ妊婦には優しくし、でも、カッとなると怒鳴りまくる。欠点もあるけれど、家族や友人から愛される青年。以前、犯罪に手を染めたことがありますが、子供のためにと改心して、まじめに生きようとする。社会の冷たさにも負けずに精一杯いきようとする青年。そんな彼の生き方を伝えることで、オスカーという人間が確かにいたということを伝えたかった監督の意図は見事に成功しました。最初7館の全米の上映館が1000館以上になったというのも、多くの人の心をつかんだということでしょう。
僕は、同じ4歳の娘がいる父親として、2つのシーンがいたたまれなかった。ひとつは娘を保育園に迎えに行った後、自動車まで競争するシーン。現実には、娘と駆けっこをしていますが、回想では娘をおんぶしています。娘のぬくもりを感じていきたい。その気持ちが痛いほど伝わってきました。もうひとつが、タチアナに父親の死が告げられるシーン。最初はきょとんとしていた彼女が、幼い心ながら何かを感じる表情をみせたところは、子役の名演技もあり、すさまじいの一言。実は、少し前に私の父が亡くなったこともあり、娘は「死ぬとどうなるの」と盛んに聞くようになりました。4歳にとって身近な人の死はやはり影響を与えるものです。まして、自分の最愛の父親が死んだらどうなるのか、タチアナの表情は見ていていたたまれなくなりました。
もうひとつ考えさせられたのは、人間はあっけなく死んでしまうということ。オスカーが死んだのはいくつかの不幸な偶然が重なったためでした。たとえば、車で外出しようとした彼に、母親が「車は混雑しているから電車でいきなさい」とアドバイス。母親の言うことを素直に聞いた彼は電車で行きます。もし、車で外出していれば、こんな事件に巻き込まれなかったわけで、こうしたささいな出来事の積み重ねの結果、彼が死に至る描写は、人間の運命というものを考えさせられました。
淡々とした描写が続くので、予告からいわゆる泣かせる映画を期待していくと肩透かしをくうかもしれませんが、心をうつ秀作といえましょう。まだ若い監督の今後が楽しみです。
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