2014年05月11日

そこのみにて光輝く

 函館出身の作家、佐藤泰志の小説の映画化。同じ原作者の「海炭市叙景」が良かったので、見に行きました。非常に丁寧に作られた作品で、人間の業をよく描いていると思うけれど、かなり古めかしいつくりになっているのは、原作が30年近く前の作品だからでしょうか。

 作品情報 2013年日本映画 監督:呉美保 出演:綾野剛、池脇千鶴、菅田将暉 上映時間:120分 評価★★★★(五段階)鑑賞場所:ヒューマントラストシネマ有楽町、鑑賞日5月8日 2014年劇場鑑賞61本目



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 【ストーリー】
 函館のアパートにひっそりと住む青年、達夫(綾野剛)はある理由から職も辞め、パチンコと酒にまみれた日々を送っていた。夏のある日、パチンコ屋でライターの貸し借りをしたことから、植木職人の見習い、拓児(菅田将暉)と知り合う。彼は前科者だが、明るく憎めない男だった。

 海辺のバラックに住む拓児の誘いで、彼の家に遊びに行った達夫は、拓児の姉、千夏(池脇千鶴)と運命の出会いをする。しかし、千夏は、拓児の会社の社長、中島(高橋和也)の愛人で、寝たきりの父(田村泰二郎)ら家族の生活費を稼ぐため、夜の街で自分の身も売っていた。そのことを知った達夫は…

 【感想】
 勝ち組、負け組みというけれど、人生の負け組みになってしまったら、どんなにあがいてもそこから這い上がるのは困難で、大きな犠牲を払う。けれどもあがく人たちを暖かい視線で見守る。「海炭市叙景」と共通のテイストは佐藤文学の本領なのでしょうし、それを、呉美保監督が見事に映像化しました。

 達夫、拓児、千夏の3人は、過去に深い傷をおい、苦しい現在を生きています。過去のトラウマからいつもしかめっつらをしている達夫はもちろん、仮釈放中の身で、中島に逆らえず、いつもへらへらしている拓児も時折のぞく暗い顔とのギャップが激しい。そして、やりたくないのに、身を売って稼ぐしかない千夏の心情もいとおしい。3人が出会ったことで、化学反応が起きたように、心は動き出します。その描写がうまいこと。

 その一方で、中島を単なる悪役に描かなかったことで、物語に深みを増しました。もちろん、千夏を金で買う嫌なやつなのだけど、かわいい娘とやさしい妻がいるからこそ、悪いことだと思いつつも、愛人にはまるこというのは、自分がもう若くないことを受け入れがたい中年男の焦燥なのでしょう。

 特筆すべきは映像の美しさ。函館の町を観光名所ではない、その場にくすぶっている人々の目線で見事に表現しています。山道を走る中島の後ろをカメラがひたすら追いかけるシーンは、緊張感でゾクゾクさせました。そして、女性監督ならではの、激しく、醜くも美しいラブシーンの数々。池脇はかつて3大がっかりと揶揄されましたが、30代に入り、たるんだ体が非常に肉感的に見えます。それに男がみてもきれいな綾野の体や、高橋の中年ながら引き締まった体との対比は、生命があふれるようで息を呑みました。

 もうひとつ、貧乏ははっきりと人間を不幸にすると打ち出しているのがいい。千鶴の寝たきりの父は、脳卒中で言葉もろくにしゃべれないので、性欲だけはあります。千鶴の母(伊佐山ひろ子)をよんで処理させる様子は、とにかくカネがなければ、最後人間は獣のようになってしまうと思わせました。

 最近、綾野のやさぐれた役を多く見るような気がしますが、彼みたいなちょっと変わった美形は、かえって落ちぶれているほうが色気をましますね。また、菅田がここまで演技ができる俳優とは思っていなかったので、この2人のシーンは見ごたえがありました。そして、なんといっても池脇の存在感。彼女の代表作になったのではないでしょうか。

posted by 映画好きパパ at 08:45 | Comment(0) | TrackBack(0) | 2014年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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