作品情報 2014年台湾映画 監督:マー・ジーシアン 出演:永瀬正敏、ツァオ・ヨウニン、大沢たかお 上映時間185分 評価★★★★★(五段階) 鑑賞場所:角川シネマ有楽町 鑑賞日2月2日 2015年劇場鑑賞12本目
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映画リンク集-シネマメモ
【ストーリー】
1931年、台湾の嘉義農林学校野球部は連戦連敗の弱小チームだった。そこへ、松山商業を甲子園の常勝チームにした近藤(永瀬正敏)がやってくる。松山商時代に選手たちとの意思疎通に失敗して退職した近藤は、当初は野球を断ったつもりだったが、野球部顧問、浜田(吉岡そんれい)の熱心な勧誘に監督就任を引き受ける。
チームは日本人、漢人(中国人)、蕃人(台湾の先住民)の混成チームだった。異民族のチームでは意思疎通がとれないと批判もあったが、近藤は意に介さず、猛特訓でチームを鍛え上げていく。やがて、エースで主将の呉明捷(ツァオ・ヨウニン)の活躍もあり、チームは連戦連勝、ついに台湾代表として、甲子園出場を決めた。そこでも…
【感想】
3時間がまったく苦にならず、決してとっつきやすい作品ではないけれど、鑑賞後は感動に包まれました。人種の壁を越えて、野球へかける熱い思い。厳しいながらも愛情を持つ鬼監督と彼に突っ込みを入れながらも、腹が減った選手たちのために、食事を作る夫人(坂井真紀)。まだまだ偏見が強いなか、「漢人は攻撃力、蕃人は走力、日本人は守備力に優れていて、最強のチームができる」との信念で、選手たちを分け隔てなく育てた近藤監督には頭が下がります。
そして、台湾の農地水利事業に大活躍した八田興一(大沢たかお)のエピソードもうまく取り入れています。干ばつに苦しみ楽しみがなかった農民たちが、水利事業のおかげでゆとりが出て、野球を応援することができる。チームにも工事に携わった技術者の子供がいるなど、一見すると何もないエピソードが実によくつながりました。ラストの一言につながる重要なシークエンスです。
プロデューサーと共同脚本のウェイ・ダーションは、高砂族の日本人虐殺を描いた「セデック・パレ」の監督。実はセデック・パレの時代と、嘉義農林の活躍の間がわずか数年しかないというのも、何ともいえない複雑な味わいを出しています。しかし、「セデック・パレ」と違って、あからさまな差別は少なく、甲子園で暴言を吐いた新聞記者(小市漫太郎、菊池寛がモデルとの説も)が、選手たちの全力プレーをみて、すっかり嘉義農林ファンに転向してしまうのも、ベタだけどうれしくなります。
セリフの9割以上が日本語で、しかも台湾人のカタコトの日本語だから聞き取りにくいところもありました。しかし、実際に当時はそうだったのでしょうから、気になりませんでした。日本を美化しすぎていると中国から批判があり、金馬奨(台湾アカデミー賞)の主要賞で落選したとかいわれるなか、記録的動員をあげたというのも、感慨深い。
また、野球シーンが本格的。台湾に当時の甲子園を再現した球場のセットを作るというのもすごいですし、ツァオ・ヨウニンをはじめ、選手たちは俳優よりも野球ができることを優先したとあり、迫力あるプレーがみられます。ちなみに、ツァオ・ヨウニンは台湾U21代表で日本チームを破った名外野手です。そして、野球シーンが多いけど、それぞれの試合ごとに撮り方を工夫しており、本当に手に汗を握るシーンばかり。
しかも、巨人の星のオマージュかと思いきや、実際に起きた出来事を再現しているのですから、びっくりです。ただ、時代的にスライダーという言葉は、一般化していないはずというのが、突っ込みどころでしょうか。なお、実況アナウンサーは文化放送の斉藤一美アナ、解説者はソフトバンク二軍監督の水上善雄さんを起用して、日本の野球中継に劣らない名場面に仕上げています。
そして、影の主役ともいえるのが、ライバルの札幌商業のエース、錠者(じょうしゃ、青木健)。冒頭、彼の回想から物語は始まります。甲子園での対決が、ライバル高校の選手の精神までも高めたというのは、やはり野球は素晴らしいスポーツであり、映画も素晴らしい芸術だと実感しました。
なお、エンディングで選手たちのその後の様子が字幕で報告されます。戦死者もいれば、日本のプロ野球で活躍した人もおり、歴史の重みにため息がでました。
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