2015年03月14日

フォックスキャッチャー

 アメリカ有数の大富豪が、オリンピックの金メダリストを射殺した衝撃の事件を映画化。ベネット・ミラー監督の底意地の悪さを感じさせる、暗く重い作品でした。

 作品情報 2014年アメリカ映画 監督:ベネット・ミラー 出演:スティーヴ・カレル、チャニング・テイタム、マーク・ラファロ 上映時間135分 評価★★★★(五段階) 鑑賞場所:角川シネマ有楽町 鑑賞日3月6日 2015年劇場鑑賞25本目



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 【ストーリー】
 レスリングのロサンゼルスオリンピック金メダリスト、マーク・シュルツ(チャニング・テイタム)は、マイナー競技のうえ、生活が苦しかった。そんな彼に、大企業デュポン社の御曹司、ジョン・デュポン(スティーヴ・カレル)から連絡が入り、彼が練習場や資金を提供するチーム・フォックスキャッチャーを作るので、そのリーダーになってくれないかと依頼される。

 大邸宅の敷地内に設けられた豪華なトレーニング場と住まいも与えられたマーク。同じ金メダリストでコーチをしてくれた兄のデイヴ(マーク・ラファロ)もスカウトされるが、家族の生活を大事にしたいデイヴは断る。しかし…

 【感想】
 実話では、マークがソウル五輪に出場したあと、事件発生までは8年あります。しかし、映画をみると、五輪後すぐに事件が発生したようで、印象が全く違います。映画は映画として、考えるべきなのかもしれません。

 それはともかく、アメリカ有数の金持ちでも、母親(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)に馬鹿にされ、友人も金目当てしかおらず、孤独から精神がむしばまれていくジョン。一方、金メダリストでありながら、人付き合いもうまくなく、困窮生活に悩むマーク。しかも、彼の場合、兄のほうが名選手として知られており、内心には無力感のようなものがあったのでは。冒頭、小学校の子どもたちの前で講演をしたのに、兄と間違えられ、しかも講演料がたったの20ドルしかない、というのにはなきました。時代が違うとはいえ、マイナー競技だとメダリストでもそうなのかなあ。

 父親も恋人もいないなマークとジョンは、孤独な魂がふれあうように親密になっていき、ある意味では恋人のようにすらみえました。しかし、2人ともこれまで、まともな人間関係が作れなかったこともあり、徐々に近親憎悪的になっていくと思います。ジョンはカネさえあれば何でもできると信じきっており、自分にレスリングの知識がろくにないのに、カネを払ってレスリングアメリカ代表のコーチになります。しかし、所詮は素人レベル。しかも、マークに酒や麻薬を勧めるなど、コーチとしてあるまじき行為を平然と行って、マークの成績は下降していきます。

 そんなマークの前に再び現れたのが、デイヴでした。性格も温厚、コーチとしての技量も一流、そして、良き夫であり良き父である完璧な存在。マークはデイヴのおかげで、世界選手権で優勝を果たします。しかし、それは再びデイヴの支配下にはいることであり、ジョンにとっても、自分の大切なものが奪われた上、選手たちの尊敬やコーチとしての名声もデイヴにとられてしまいます。そして、何より母親すらも、そんなジョンの様子に愛想を尽かしてしまいます。

 徐々に、狂っていくジョンとマーク。中盤以降の不穏な空気は、見ているこちらの胃も痛めつけていきます。直接的な殺人の動機ははっきり描かれていないけれど、そこに至るまでの積み重ねをこれまでもかというぐらい丁寧に描いているので、人間の怖さ、哀れさにいたたまれなくなりました。最後、ある試合会場で「USA、USA」の大合唱が流れているシーンなんか、ベネット・ミラー監督の悪意すら感じてしまいました。

 コメディ俳優として知られるスティーブ・カレルが、完全に境界の向こう側にいってしまう大富豪役を好演。精神病者の演技ではヒステリーとか大仰に演じる場合が多いのですが、カレルは完全に抑えた表情、なにげもない仕草からどんどん狂っていく様子を表しており、オスカーノミニーも納得です。また、チャニング・テイタムも、これまで、アクションかラブコメしかできないと思ってましたが、素晴らしい演技を見せています。ただ、それだけに何度も見直すと、見ているこちらの心にダメージを与えそうな作品でした。
posted by 映画好きパパ at 06:07 | Comment(0) | TrackBack(11) | 2015年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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