作品情報 2014年アメリカ映画 監督:クリント・イーストウッド 出演:ブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラー、ベン・リード 上映時間132分 評価★★★★★(五段階) 鑑賞場所:TOHOシネマズ日本橋 鑑賞日3月10日 2015年劇場鑑賞27本目
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【ストーリー】
テキサスのカーボーイ、クリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)は、幼い頃に父親(ベン・リード)から、善良な市民(羊)を悪いオオカミから守る番犬(シープドック)になれと徹底的に教育された。9.11テロの衝撃的なニュースをみた彼は、すぐに軍に志願する。
アメリカ海軍の最強部隊、「ネイビーシールズ」に配属された彼は天性の射撃の腕をいかし、狙撃手となる。新婚早々、妊娠中の妻タヤ(シエナ・ミラー)をおいて、イラクに出生する。彼は、米軍史上最高となる160人もの敵を射殺する伝説の狙撃手となった。しかし、タヤはカイルの身の安全とともに、心がだんだん壊れていくことに不安になっていく。
【感想】
冒頭、イラクで初めて任務に就いたクリスは、イラク人の母子が爆弾らしきものを片手に部隊に近づいているのを発見します。まだ10歳にもならなそうな少年を射殺できるのか。観客とともに緊張が高まる仲、映画は幼いころのクリスに戻ります。聖書を信じて、アメリカことが正義、力で悪から守らなければならないという保守的な家庭で徹底的に教育されたクリス。彼にとって、9.11で罪もなき人々の命を奪ったテロリストこそ、徹底的に倒さなければならない敵なわけです。
ところが、今になって分かりますが、イラクのフセイン政権は9.11テロとも大量破壊兵器とも関係がなかった。フセイン政権を倒しても、イスラム過激派の膨張を招いたことを考えれば、あの戦争には大義がなかったわけです。しかし、彼はそんなことを考えず、アメリカこそ正義であるという考えで、目の前の敵を倒すことに専念する。それが女性だろうが、子どもだろうが関係なく。
一方、イラクの人たちからすれば、突然攻め込んできたアメリカこそ悪なわけで、だからこそ、クリスのゆがんだ正義というのが、第三者である日本人の僕には、痛く感じます。基本的に、イラク側の事情を描いていないことを批判する意見もありますが、ちらっと出てくる、アメリカに協力したためにイスラム過激派に幼い息子を惨殺される親や、イラク側の天才スナイパー、ムスタファ(サミー・シーク)も幼い赤ん坊がいる描写が少ないだけにかえって印象的でした。
クリスも表面的なことはともかく、潜在意識ではそのことをわかっていたのかもしれません。例えば、戦場では命がけなのに、休暇で帰ったアメリカでは、居酒屋でほかの客はスポーツ中継に熱中し、戦場のことなどだれにも話題にしません。この戦争に大義などないのです。幼い頃から聖書は肌身離さずもっているのに、戦場で開くことはなかった。カウンセラーに「敵を殺したのは神の前でも恥ずかしくない」というセリフは秒読みです。そして、常に緊張感を強いられる戦場での経験が長くなるほど、PTSDが起きてくる。
戦場からアメリカの自宅に携帯電話で妻と話すというのもすごい時代だと思いました。そして、電話は通じるのに、平和に暮らす妻の心とのギャップがどんどんでてきてしまうことも、クリスの精神荒廃に拍車をかける。
ところが、戦闘シーンだけみると、計算し尽くされたエンターテイメントになっているわけです。ムスタファとの知力と銃の腕前をかけた勝負は、劇画のゴルゴ13のよう。また、閉じこもった要塞に無数の敵が殺到していくのを次々と倒していくのは、それこそシューティングゲームとしか思えません。ここだけみれば、戦意高揚映画といってもいいでしょう。
ラストのあっけなさ、そして、当時の映像を使ったアメリカの映像、無音で流れるエンドロール。イーストウッドはあえて説明しないで、みている我々に答えをだすよう突きつけているのだと思いました。それがイーストウッドの思いと違った答えであっても、考えることが、まず、自立した人間の第一歩です。同時にその回答によって、観客の心のレベルもわかってしまう。頑固じじいらしい作品だな、とつくづく思いました。
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