2015年08月20日

野火

 これは凄まじい戦争映画です。英雄でも何でもない、末端の兵士が生存本能で地獄から生還する話ですが、この作品を見ると他の日本の戦争映画はきれい事だらけに見えてなりません。資金が集まらず自主制作に近かったそうですが、こうした作品がある限り、邦画の未来は明るいでしょう。

 作品情報 2014年日本映画 監督:塚本晋也 出演:塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也 上映時間87分 評価★★★★★(五段階) 鑑賞場所:ユーロスペース 2015年劇場鑑賞116本目 


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 【ストーリー】
 戦争末期のフィリピン・レイテ島。圧倒的な米軍の前に日本軍は劣勢を強いられ、食糧もほとんどなく飢えていった。田村一等兵(塚本晋也)は結核のため野戦病院にいくよう命じられるが、そこは、重傷患者ばかりで追い返される。

 部隊に戻ったが上官(山本浩司)に殴られ、病院にいけないのなら自決しろと命令される。病院のそばにたどりついた田村だが、空襲で病院は炎上。激しい空腹に苦しみながら、ジャングルをさまようことになる。

 【感想】
 原作は昔読んだことはありますが、市川崑版は未見。とにかく、戦場のリアルというのが伝わってくるようで、こんな作品はほかにみたことがありません。緑豊かで真っ赤な花が咲き誇る、南国の美しいジャングル。しかし、食糧が途絶えた日本軍にとっては地獄です。部隊の周りで穴を掘っている日本兵たちが、泥と汗まみれで真っ黒になり、なおかつ、ほんのわずかの芋のかけらを巡って争うシーンは、その臭いがこちらにも伝わってきそうになります。

 さらに、米軍の襲撃で日本兵がずたずたにやられるシーンでは、手足はちぎれ、顔の半分はふっとび、血だらけになりながら死んでいく。戦死体や死にかけた体にはウジやハエがたかります。ハリウッドの戦争映画にもでてこない、リアルさというのを実感しました。大口径の機関銃で撃たれたら、人間の体なんてばらばらになるわけで、こんな戦場にいかずに美味しいものをたらふく食べられる現代の幸せを実感します。

 さらに、飢えに苦しみ、人肉食というタブーにも挑みます。理性はとめるわけだけど、飢えには耐えられない。「猿の肉」といわれて、それがなんだかわかっているのに、ごまかして自分を納得させるのは、最近の政治家と何ら変わらないと愕然としました。

 田村は生きるために必死で食糧を探し、パニックになって丸腰の現地の女性を射殺するなど、およそ主役とは思えない行動をとっています。これを塚本監督といういっけんおとなしそうな俳優が演じているから、よけい、窮地に陥ったときの人間の怖さがでてきます。

 とにかく、目だけがぎらぎらして、あとは泥と汗で真っ黒な日本兵はだれがだれだか分かりません。さすがに骨と皮だけにするのはむずかしかったのでしょうが、目つきとあばら骨で、十分、飢えている戦場をあらわしました。リリー・フランキーは終盤の声で分かりましたが、最初はどの役にでているか見当もつかなかった。

 力強い伍長役の中村達也の存在感や、何を考えているのか分からない不気味な安田(リリー・フランキー)とその子分というか親子的関係に陥る若い兵隊の永松(森優作)との関係など、極限化の人間関係というのがとにかく怖かった。戦後70年ということで戦争映画がいろいろ公開されていますが、今こそ映画館でぜひともみるべき作品でしょう。
posted by 映画好きパパ at 08:11 | Comment(0) | TrackBack(7) | 2015年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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