作品情報 2014年アメリカ映画 監督:ダン・ギルロイ 出演:ジェイク・ギレンホール、レネ・ルッソ、リズ・アーメッド 上映時間118分 評価★★★★(五段階) 鑑賞場所:ヒューマントラストシネマ渋谷 2015年劇場鑑賞125本目
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【ストーリー】
ロスでマンホールや金網などを盗んでその日暮らしをしているブルーム(ジェイク・ギレンホール)は、偶然遭遇した交通事故現場で、フリーのカメラマンが映像を撮り、それがテレビ局に高く売れることに気づいたのがきっかけで、自らも、見よう見まねで犯罪・事故専門のカメラマン「ナイトクローラー」になる。
誰よりも早く、衝撃的な映像を地元のテレビ局に売り込むのが仕事。視聴率低迷に苦しむ女性ディレクター、ニーナ(レネ・ルッソ)に、センスと度胸を買われた彼は、貧しい青年リック(リズ・アーメッド)を言葉巧みに助手に使い、次々とスクープ映像をものにする。だが、彼の行動は、次第に常軌を逸していき…
【感想】
スクープほしさのマスコミが犯罪まがいの非倫理的な行動をするというのは、古くはビリー・ワイルダー監督の「地獄の英雄」という作品(未見)があるそうですが、何度か映画や小説で取り上げられたテーマ。そうしたなか、本作の最大の特徴は、やはりジェイク・ギレンホールの演技につきるでしょう。
もともと、サイコパスぽく、リックからも「人の気持ちが分からない」と非難されたブルームですが、物腰は低いとともにビジネスマンとしての交渉能力はピカイチ。最初はニーナにあしらわれていたのが、次第に力関係が逆転していくのは怖い。論理的に相手の弱点を突き、そのうえで相手に、自分の都合の良いよう選択させるというのは、交渉のお手本になりそうです。さらに、相手と会話するときの目が、悪夢にでてきそうなくらい怖い。
日本とアメリカでは放送の感覚が違いますが、アメリカではニュースも視聴率競争が激しく、日本では放送できない被害者の遺体なども平気で放送します。ブルームの場合、さらにすすんで、カメラにうまく入るよう遺体を動かしたり、勝手に事件現場の家に入り込んだりと、日本だったら犯罪になる行為だけど、こんな映像まで放送するというのはすさまじい。放送局内にも慎重論がありましたが、視聴率がほしいニーナはそれを押し切ります。マスコミがきれいごとをいっても、しょせん、視聴率目当てだということを皮肉っています。ちなみに日本では警察無線の傍受は技術的に困難ですが、アメリカでは合法。また、ナイトクローラーも、組合のうるさいアメリカでは深夜はフリーから素材を買っていますが、日本のテレビ局はそんなことはなく、よほどの映像でない限り、謝礼も出ないか、出ても雀の涙のはずです。
そして、恐ろしいのが、ブルームがスクープ映像を売れば売るほどリッチになり、乗っている車もぼろい中古車が赤い新車のスポーツカーに変わっていくわけなのですが、彼の行為を指弾するのではなく、むしろ、わくわくするように見せていることです。つまり、視聴率というのは、一般市民一人一人によってもたらせているものだから、観客のおまえらも本心ではこういう映像を望んでいるんだろ、ということをつきつけます。
また、リックに対しても、「今はインターン中だ」といって無料でこきつかおうとしたり、自分はもうかっているのに、全然昇級させないなど、ブラック企業そのもの。これ、ひどいなと思っていたのを、終盤に逆転させるという脚本もお見事でした。
そしてクライマックスの事件のシーンは、ダン・ギルロイ監督は「ボーン・レガシー」の脚本家だけあり、手に汗握るサスペンスとはまさにこのこと。いったい、最後まで何がどう転ぶのか分からず、楽しませてくれました。エピローグでの発言もうならせました。アカデミー脚本賞にはノミネートされたのも納得です。
上映館は少ないのですが、社会派サスペンスが好きな人にはたまらない傑作ではないでしょうか。特に、マスコミのひどさは、実はブルームよりも、テレビ局、テレビ局よりも視聴者に責任があるというあたりは、日本でも変わらないのかもしれません。そして、マスコミではサイコパスで勤勉な野心家が出世すると言うことも。
ちなみに、レネ・ルッソはダン・ギルロイの奥さんですし、ジェイク・ギレンホールは制作も兼ねています。アクションも派手に金がかかっている場面はほとんどありません。制作費は850万ドルで、邦画だと「大日本人」「デビルマン」と同程度の費用です。低予算でも工夫しだいでいくらでも良作が撮れるお手本ですね。
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