作品情報 2015年ジョージア/フランス/イギリス/ドイツ映画 監督:フセン・マフマルバフ 出演:ミシャ・ゴミアシュヴィリ、ダチ・オルウェラシュヴィリ、イャ・スキタシュヴィリ 上映時間:119分 評価★★★★(五段階) 鑑賞場所:新宿武蔵野館 2015年劇場鑑賞190本目
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【ストーリー】
独裁者の大統領(ミシャ・ゴミアシュヴィリ)は反対派を片っ端から処刑するなど、身勝手な政治を行っていたが、ついに国民の不満が爆発し、クーデターが起きる。国外脱出を図る途中で、暴徒に襲われ、護衛も逃げてしまった大統領は5歳の孫息子(ダチ・オルウェラシュヴィリ)と2人きりになる。
貧乏な床屋を脅かして、カツラと粗末な服を奪った大統領は、旅芸人のふりをして、国境から脱出しようとする。だが、クーデター部隊は多額の報奨金をかけて大統領の行方を追っていた。さらに、これまで酷い目に遭っていた国民も大統領をみつけて痛い目に遭わせようと手ぐすねをひいていた。果たして大統領と孫の運命は…
【感想】
モフセン・マフマルバフ監督は若い頃、イランの反体制運動に加わって、政治犯として投獄されています。さらに、現在はヨーロッパに亡命していますが、イラン政府から命を狙われています。そうした自らの政治体験の一方、アフガニスタンを舞台にした「カンダハル」をはじめとして、世界的にも評価が高い監督です。その彼がなぜ、今このような作品を撮ったのか、非常に考えさせられました。
大統領は、仕事では冷酷ですが、逃避行の最中は、孫の安否をおろおろと心配する一人の老人に過ぎません。逆に、孫にはこんなに優しい老人が、なぜ、残虐なことを平気で行えたのか。大統領以外の人物の行動をみても、人間はだれでも地位や時期によって、残虐な行為を行えるということを表しているのでしょう。登場人物が「大統領」「孫」という形で固有名詞がないし、地名なども語られないのは、これが普遍的な物語であるという現れです。
一方、クーデター部隊の兵士が女性を乱暴する場面に遭遇しますが、本来は独裁者を倒した正義の味方が、力のない女性をもてあそんでいる。西側諸国は「アラブの春」と、アラブ諸国のクーデターを評価したり(最近では反省もあるみたいですが)、シリアの反体制派が正義と喧伝している。けれども、中東に産まれ育ったマフマルバフからすれば、そんな一面的な見方しかできない、西側諸国に対する不信感が伝わってきます。それでも、ラストシーンは、人間に希望を託したい、マフマルバフの願いの現れでしょう。人類の愚かさ、暴力の連鎖がいつになったら止まるのかと、深く感じ入りました。
といって、小難しい作品ではありません。冒頭、大統領は自分の権力を見せつけるために、孫の前で「町の明かりを全部消せ」と消して見せます。さらに、孫にも同じことをやらせます。このあたりはチャップリンのドタバタ喜劇をみているよう。また、宮殿では「大統領と呼べ」と言っていたのに、逃げている最中は「大統領と呼ぶな」といって孫が混乱するなど、クスリと笑えるシーンもちりばめており、物語が陰惨すぎないようにする手腕はお見事でした。
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