2016年05月18日

太陽

 面白いSF映画を作るのに大切なのはセンス・オブ・ワンダーで、予算というのはそれほど関係ないということがわかる作品。見終わって何日かたつけど、いまだにこの世界観にひたっていたい気分です。

 作品情報 2015年日本映画 監督:入江悠 出演:神木隆之介、門脇麦、古川雄輝 上映時間:129分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:角川シネマ新宿 2016年劇場鑑賞98本目



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 【ストーリー】
 近未来、人類の大半は謎のウイルスで死亡した。生き残った人類のうち、抗体をもっていた人々は「ノクス」と呼ばれ、急速な進化をとげた代わりに、太陽の光に浴びれない体となった。一方、かろうじて感染を逃れた人々は「キュリオ」と呼ばれ、隔離された集落で細々と暮らしていた。キュリオのうち、選ばれた若者だけがノクスへの転換手術を受けることができた。

 鉄彦(神木隆之介)の暮らすキュリオの山村は、10年前、叔父の克哉(村上淳)がノクスを惨殺した報復として、経済封鎖をされ、貧しい中世のような生活を送っていた。鉄彦は文明的な生活をするノクスにあこがれていた。幼馴染みの結(門脇麦)は、母親の玲子(森口瑤子)が幼かった自分と父親の草一(古舘寛治)を捨ててノクスになったことから、ノクスに対する恨みを抱いていた。10年ぶりに封鎖が解かれ、再びノクスへの転換手術が行われることになった。果たして2人と運命は…

 【感想】
 原作の前川知大の戯曲が、リチャード・マシスンの「地球最後の男」の影響を受けているように、太陽を浴びたら死んでしまう、謎のウイルスが原因で起きたなどの設定から、ノクスはゾンビや吸血鬼と似たようなものといえましょう。ただ、この作品のうまいのは、ノクスは文明的な生活を送っており、キュリオは人間の欲望がむき出しとなった暴力的な存在になっているという点にあらわれます。

 同じ人間だったのに、ノクスはキュリオを下に見るし、キュリオはノクスのことを、自分たちの生活を悲惨なものにする疫病神のように忌み嫌います。しかし、キュリオのなかにも、結の母や鉄彦のように、ノクスにあこがれるものもでてきます。

 だからといってノクスを礼賛しているわけでもありません。鉄彦と友情を結ぶノクスの門番の青年(古川雄輝)が語るノクスの世界は、ノクスの中でも差別があり、能力に劣るものは使い捨てになっています。取り澄ましたようなノクスの世界の描写は、みているものに嫌悪感をかんじさせるでしょう。さらに、ノクスの世界もあちこちで行き詰まりをみせています。このあたりは、いきすぎた資本主義を揶揄しているよう。

 また、閉ざされたキュリオの村で、抑圧されて悶々とする鉄彦や結たちは、結局、そのはけ口が暴力や性にいくしかなく、人間の暗部をそのまま写しているようでした。鉄彦が粗暴だけど純真さをみせているだけに、余計、彼の行動の痛さはみているこちらもいたたまれません。「サイタマノラッパー」の入江悠監督の長回しの魅力と、子役以来天才の名前をほしいままにしている神木の演技力が十二分に発揮されました。

 一方で、教師という立場もあり、理性を保ちながらも、娘の幸せのためにどうすれば良いのか悩み続ける草一の様子は、同じ父親として、つらさが痛いほど伝わってきました。終盤の草一と結の会話、そして、仕草は、文字通り鳥肌がたちました。門脇がここまで演技がうまいとは。

 ラストは希望とも絶望ともとれるひねったもの。邦画でもこうした深く、かつ、エンターテイメントとしてしっかり成立する作品があるということはうれしい限りです。
posted by 映画好きパパ at 06:52 | Comment(0) | TrackBack(4) | 2016年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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