作品情報 2016年日本映画 監督:是枝裕和 出演:阿部寛、真木よう子、樹木希林 上映時間:117分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:イオンシネマ市川妙典 2016年劇場鑑賞106本目
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【ストーリー】
若い頃に小説の新人賞を受賞したものの、その後鳴かず飛ばずで探偵をしている篠田良多(阿部寛)。大言壮語にギャンブル好きのいい加減な性格で、妻の響子(真木よう子)に愛想を尽かされ、小学生の息子・真悟(吉澤太陽)をつれて離婚された。
元妻に未練たらたらの良多だが、養育費も競輪につぎ込んでしまうありさま。団地で独り暮らしをしている母の淑子(樹木希林)にカネをたかろうとするがうまくいかない。真悟が淑子に懐いていることから、月に一度の面会の日に淑子のところへ2人で押しかける良多。そこへ台風が来て、響子が真悟を迎えにくるのだが…
【感想】
「エベレスト 神々の山嶺」とはまったくちがって、だめな中年男の良多。周囲に借金をたかるうえ、探偵の仕事も浮気の証拠を握りつぶす代わりに謝礼を受け取るなど、近くにいたら嫌な存在ですが、悪意がなくて本能のままに生きている感じがして、どこか憎めない存在になっています。真吾や探偵事務所の後輩(池松壮亮)が、半分、しょうがないと思いながらも懐いているのがよく分かります。
結局、良多は大人にも父親にもなりきれていないわけで、仕事面も昔の夢と才能がちょっとあったことにしがみつき、現実に立ち向かうことができない。響子との関係もそうで、響子に新しい恋人(小沢征悦)ができたきくと、半分ストーカーのようにあとをつけたり、まったく成熟していない。
その象徴が淑子との関係です。淑子も50歳近い良多を、ダメな息子ほどかわいいという感じで甘やかしているのは、阿部寛だからいいものの、ぞっとするほどのマザコンぶりを感じさせられました。タイトルの「海よりもまだ深く」は劇中流れるテレサ・テンの曲の一部ですが、母の愛が海よりも深いにもかけている気がします。この日本的な濃密な母と息子の関係が中年まで続くところが良多をダメにしているわけです。劇中、亡くなった設定になっている良多の父親もだめな男として描かれていますが、これも、淑子にも責任があるようにみ受けられました。
一方、響子や、良多の姉の千奈津(小林聡美)は、こうした男達のだらしなさをみているためか、しっかりと生きている。女性のほうが現実的だという意味が良く分かりました。けれども台風の夜のちょっとした経験は、良多が自分が子供のころ、嫌いだった父との懐かしい思い出につながったことから、ちょっとだけ良多を大人にします。50歳近くになって大人になるという言い方も変ですが、こうした未成熟な男が実生活にもいかに多いか感じます。
また、舞台が郊外の団地というのも今の社会をよく表しています。昔は夢のニュータウンで、子供たちが公園で遊んでいた団地も、今や老人が孤立して住むだけ。そうした老人にとって、子供たちに甘えられるというのは、利用されているとわかってもうれしいものでしょう。これもまた歪んだ日本社会の現れかもしれません。
阿部、真木、樹木の是枝監督おなじみの面々は、さすがに安定した演技。小林聡美もすっかり溶け込んでいます。リリー・フランキーや中村ゆり演じる探偵事務所の面々や、橋爪功のインテリ男性といった脇役も、それぞれ、これまでの人生を感じさせるキャラの深みがあります。こうした人物造形は是枝監督のうまさだとつくづく実感しました。平成の小津安二郎になりつつあるかもしれません。
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