作品情報 2014年オランダ映画 監督:ローゼマイン・アフマン 上映時間:82分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:ヒューマントラストシネマ渋谷 2016年劇場鑑賞161本目
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【ストーリーと感想】
アフマンは映画好きの一介の銀行員にしか過ぎませんでしたが、スレーブブルグ銀行のロッテルダム本店に、「戦争と平和」「道」などの著名な映画プロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティスが口座を開きに来たことで運命は変わります。口座開設とは別に、作品への融資を提案したアフマンは、ラウレンティスから「そんなことをいう銀行員は初めてだ」と気に入られます。映画はヒットすればいいですが、コケたら大赤字になるため、リスクが高いと金融機関に敬遠されていました。アメリカの大手銀行はハリウッドの大手会社以外には見向きもしません。しかし、アフマンとラウレンティスは銀行が損をせずに融資する手法を編み出します。
それはプリセールというものでした。脚本や監督、主演などの情報をもって、「こういう映画を作りたい」と世界中の映画会社にその国での配給権を売り込む。その契約を担保にして、銀行が融資を実行する。そうすれば、まだ、1秒も製作しないのに、資金がプロデューサーに渡ります。映画が製作されるかは、保証会社が担保します。もし、作品が赤字になっても、銀行は金を損しない仕組みですし、ヒットすれば、契約料などでもうけがでます。
ただし、配給権が売れなければ契約がなりたちません。そのため、映画のスタート時点からアフマンは密接にかかわり、時には監督を交代させたり、主演俳優を起用させたりということまでするようになります。脚本を自分でチェックし、制作陣や俳優と話し合ったうえ、自分の経験と勘で判断し、責任もすべて自分がしょって融資する。撮影にも立ち会い、日本をはじめ各国の映画会社ともパイプを作り、ネットワークを強化していく。彼が融資した作品は実に900本。「スーパーマン」「キングコング」といった大作、「薔薇の名前」のような文芸作品、「恋人たちの予感」といった恋愛映画、さらには忍者映画のようなB級作品までジャンルは問いません。
1987年、プラトーンが作品賞をとったアカデミー賞授賞式では「クレディ・リヨネ銀行のフランズ・アフマンに感謝します。彼はジャングルまで金を届けてくれた」と前代未聞のスピーチをされるほど。この年のアカデミー賞では8部門が彼が出資した作品で占められました。マスコミにも大きく取り上げられ、JPモルガンの幹部から「オスカー授賞式で銀行の名前を呼ばれて感謝されることが、すべての銀行員の夢になった」と語られるほど、いわば世界一有名な銀行マンでした。
しかし、彼の栄光にも陰が忍び寄ります。90年代になると映画に巨額の制作費がかかるようになります。例えばターミネーターの制作費は580万ドル。それが、ターミネーター2は1億ドルを超えます。融資も大規模になり、アフマンのような昔ながらの相手の才能を信頼して判断するなどというやり方は通用しなくなりました。さらに、映画界に食い込むということは、連日連夜、スターとパーティーを繰り広げる派手な生活。映画会社から賄賂をもらったなどの黒いうわさが飛び交い、銀行内部でも白い目で見られます。
極めつけは、大手映画会社MGMをめぐる買収劇でした。アフマンの反対を押し切って銀行上層部が怪しげな投資家に行った融資は焦げ付いたうえ、フランス政府をも巻き込んだスキャンダルになります。彼は失意のうちに銀行をさりました。同時に、自由きままに映画を作った独立系映画会社も次々と消え去り、シリーズものや原作ものばかりが重視され、冒険的な企画が少なくなった今の映画界になっていきます。
オリバー・ストーン、ケビン・コスナーらの貴重な証言が満載。娘がとったので、批判的な部分が少なくなったかも知れませんが、逆に、家族との関係も深みをもって描かれています。例えば、アフマンの妻は、アフマンが仕事に打ち込みすぎてほとんど家におらず、家庭を顧みないことを不満に思っていたのですね。上映館が少ないですが面白い作品です。
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