作品情報 2016年アメリカ、ドイツ、カナダ映画 監督:スティーヴン・ホプキンス 出演:ステファン・ジェームズ、ジェイソン・サダイキス、ジェレミー・アイアンズ 上映時間:134分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:TOHOシネマズシャンテ 2016年劇場鑑賞192本目
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【ストーリー】
1933年、貧しい黒人家庭に育ったジェシー・オーエンス(ステファン・ジェームズ)は類いまれなる陸上選手としての能力を発揮。名門オハイオ大学陸上部に入学する。人種差別が厳しい時代だったが、コーチのラリー(ジェイソン・サダイキス)は、一人前のアスリートとして扱い、人種差別からジェシーを守った。
全米大会でわずか1時間の間に3種目も世界新記録を出して一躍時の人となったジェシー。女性問題をめぐるゴタゴタもあったが、幼馴染みのルース(シャニース・バントン)と無事結婚し、公私ともに順風満帆だった。だが、ベルリン五輪はナチスの宣伝の場となっており、黒人であるジェシーは人種差別反対の観点からも、オリンピックをボイコットするよう黒人の指導者から要請される。一方、アメリカ五輪委員会のブランテージ会長(ジェレミー・アイアンズ)は、なんとしても彼を出場させたがった。
【感想】
リオ五輪で日本中が盛り上がった夏、本来のオリンピック精神とは何かを考えさせる素晴らしい作品です。オリンピックに参加するかどうかも国内を二分する議論になる。いざ、ベルリン五輪に参加すると、アーリア人の優越性を示すための五輪であり、黒人の活躍は歓迎されない。そんな四面楚歌のなかで、ジェシーは「走っている10秒間だけは、人種に関係なく自由になれる」と出場を決めます。原題がrace(競争だけでなく人種の意味もある)というのも意味深です。
そんなジェシーを支えたのが家族と仲間達でした。女性問題を起こしながらも真摯に謝罪して結婚したルース。同じ黒人のアスリートたち。そして何より、アメリカを代表する白人ランナーでありながら、ジェシーを守るとともにトップアスリートに鍛え上げたラリー。やがてジェシーとラリーは人種も年齢も超えた親友となります。こうした支えもあり、ジェシーの才能は開花します。
オリンピックに行ったドイツでも差別を受けます。ヒトラーは彼と握手するのを拒み(後になればそのほうがよかっといえますが)、ベルリン五輪の記録映画で彼を撮影しないように命じます。しかし、ドイツのなかでもジェシーを認める人いました。ドイツ代表の陸上選手カール・ロング(デビッド・クロス)は、ヒトラーの怒りも恐れず、ジェシーにアドバイス。自分は銀メダルでしたが、表彰式では腕を組んでスタジアムに手を振ります。また、女性映画監督のレニ・リーフェンシュタール(カリス・ファン・ハウテン)も、ジェシーの勇姿を記録に焼き付けます。
ジェシーがその後何十年も破られない五輪記録をたてたことは、ヒトラーの面目をつぶし、人種差別などくだらないと世界中にしらしめました。最初は黒人を嫌っていた満員の観衆から、最後「オーエンス」コールが流れるところは、スポーツのすばらしさや、オリンピックは国威発揚の場ではないことを教えてくれます。
しかし、人間が愚かなのも事実。映画ではブランテージ会長がナチスと取引したことや、アメリカ選手団が、ユダヤ人選手を出場させなかったことも示しています。さらに、英雄として帰ったジェシーですが、祝勝会のホテルで正面からの入場を拒否されるというなんとも皮肉な現実も突きつけられます。それから80年もたっているのに、アメリカでは黒人差別で衝突が続き、五輪も政治と商業主義のおもちゃとなっています。それでも、映画では最後にわずかかもしれませんが、希望をみせてくれます。
ステファン・ジェームズのフォームは躍動感にあふれた美しいもので、ベルリン五輪の最初の100メートル走にのぞむ時のワンカット長回しなど、ベテランのスティーヴン・ホプキンス監督の職人芸が光ります。カリス・ファン・ハウテンはどこかでみたなと思ったら、ポール・ヴァーホーヴェン監督の「ブラックブック」の主役でしたね。いい具合の年のとりかただと思いました。
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