2016年09月20日

怒り

 愛とは人を信じることとは何かを問う内容といい豪華出演者の素晴らしい演技といい、さまざまな意味で、今年一番、重い映画でした。李相日監督は現在の日本で最も重たい映画を楽しめる監督だと思います。

 作品情報 2016年日本映画 監督:李相日 出演:渡辺謙、森山未來、宮崎あおい 上映時間:141分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:TOHOシネマズ川崎 2016年劇場鑑賞204本目



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 【ストーリー】
 東京・八王子で残酷な夫婦殺人事件が起きてから1年。警察は全国に指名手配された犯人・山神が整形をしてどこかに潜伏していると見ていた。時を同じくして、千葉、東京、沖縄に3人の謎の男が現れる。

 千葉の漁港で働く槙(渡辺謙)は娘の愛子(宮崎あおい)が、歌舞伎町の風俗嬢になっているのを連れ戻したところだった。少し知的障害がある愛子を男手一つで育てた槙は苦悩する。狭い町でみんなが白い目でみるなか、3カ月前に港に流れ着いた陰のある男・田代(松山ケンイチ)だけは愛子にやさしく接していた。

 東京のエリートビジネスマン優馬(妻夫木聡)はゲイであることを周囲に隠し、精神的な疲労がピークになっていた。ゲイのコミュニティで出会った直人(綾野剛)という無口な青年との出会いで、優馬は初めて自分らしく生きられるような気がした。

 沖縄の離島に家庭の複雑な事情で引っ越してきた女子高生・泉(広瀬すず)は、島の沖合にある無人島に田中(森山未来)というバックパッカーが住み着いていることに気づく。自由に生きている田中に、次第に惹かれていく泉だった。

 テレビで警察が作成した山神の整形後の写真が放映される。それは、ある人物にそっくりだった…

 【感想】
 大河の主演俳優4人、宮崎あおいを含めて朝の連ドラ主演女優が4人とすさまじく豪華な出演者。ただ豪華キャストを並べるだけでなく、俳優の演技を引き出すことに定評のある李監督の手腕が光ります。中年でだらしない体つきをしながら、知的障害のある娘に対する複雑な思いをみせる渡辺謙と、自分が障害のあることがわかり、差別をうけながらも生きる宮崎あおいの2人は、これまで演じていたどのような役とも違います。

 また、綾野と妻夫木の濃密なラブシーンは、メジャー映画でここまでやるのかと思わせるほど激しかった。さらに、「ちはやふる」「四月は君の嘘」など、似たような役柄が多かった広瀬に、まさかこんな役をやらせるなんて、と驚愕させるような演出をつけます。沖縄編ではもう一人、まったくの新人の佐久本宝が、森山と広瀬に負けないような存在感をみせ、新人からベテランまでとにかくすごい演技の連続でした。

 演出も工夫しており、3つのストーリーが交互に入るのですが、沖縄編の映像なのにセリフは前の東京編のが残っているとか、微妙にずらしをいれていることで、物語に深みを感じさせます。

 ストーリーも重たく、障害をうけたりゲイだったり、社会からつまはじきをうけている人がようやく見つけた愛する人。その人が殺人犯かもしれないという疑心暗鬼を描き出し、これでもかというように過酷な状況を次々と突きつけています。まさに人を愛すること、信じることの意味を観客に問うています。さらに沖縄編では基地問題という現実の社会の問題ともリンクしており、なんと贅沢な内容なんでしょう。

 怒りというタイトルは、原作でもはっきり書かれていないそうで、映画でも観客の受け止め方によるでしょうが、各登場人物の社会に対する怒りと、同時にそれにあらがえない自分にたいする怒りの両方を痛切に感じることができました。弱い者がさらに酷い目にあうという理不尽な現実は実際に起こるわけで、怒ることしかできない。でもそのあとどうするのか。坂本龍一がチェロとピアノで主題曲を作っていますが、そのタイトルが許しというのも印象的です。

 また、沖縄の美しい海、千葉の素朴な漁村、そして東京ならではのゲイコミュニティの最先端なパーティーや高級マンションなど、地域の特性をいかした美術もすばらしい。こんなところで、こんなことが起きるのかというのも、これまた、風土と人間性について考えさせられます。

 ただ、唯一、不満があるのが山神の人間性、動機についてで、そこまで描写する時間が足りなかったせいか、単なるサイコパスにみえてしまうのですよね。状況的には彼もまた「怒り」の末の犯罪でだれにでも起こりうることと考えれば、もっと重たく考えられたのに、ちょっともったいなかった気がします。それでも、今年トップクラスの傑作であることは間違い有りません。
posted by 映画好きパパ at 07:13 | Comment(0) | TrackBack(11) | 2016年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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