ハドソン川の奇跡

　2009年にニューヨークで離陸直後の航空機がハドソン川に不時着し、乗員・乗客が無事だった事故は記憶に残っていますが、その裏でこんなことが起きていたとは知りませんでした。イーストウッド監督の乾いて抑制したタッチが魅力です。

　作品情報　2016年アメリカ映画　監督：クリント・イーストウッド　出演：トム・ハンクス、アーロン・エッカート、ローラ・リニー　上映時間：96分　評価★★★★（五段階）　観賞場所：TOHOシネマズ川崎　2016年劇場鑑賞217本目



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　【ストーリー】
　2009年1月15日、乗員乗客155人が乗ったUSエア1549便はニューヨークのラガーディア空港を離陸直後、両方のエンジンに鳥が飛び込む想定外のアクシデントに見舞われ、エンジンが停止してします。空港に引き返す時間がないと判断した機長のサリーこと、サレンバーガー（トム・ハンクス）は、ハドソン川への着水を決意。全員救助され、「ハドソン川の奇跡」と呼ばれ、サリーは町の英雄となる。

　だが、事故調査委員会は、コンピューターによるシミュレーションの結果、空港に戻る時間があったと認定。サリーの判断が誤りだったと厳しく追及する。英雄から一転、容疑者になったサリーは…

　【感想】
　冒頭、飛行機が急落下するシーンは、ニューヨークの中心部近くで、航空機墜落が起きたらどうなるのかということを、ニューヨークに行ったことのない僕もぞっとさせられます。そんな惨事を避けたサリーは、まさに英雄といって過言ではありません。

　しかし、コンピューターによるシミュレーション結果をもとに、調査委員会はサリーと副機長のジェフ（アーロン・エッカート）の責任を追及しようとします。調査委員が「墜落」というたびに、サリーとジェフが「不時着」と言い直すのは、事故に対する認識の違いもさることながら、言葉の一言一言がいかに重いかを表します。

　また、コンピューターと実際の現場は違うわけで、むしろマニュアル通りの手順を繰り返していれば、間に合わなかった。それをベテラン機長のとっさの判断が救ったということで、人間の経験の重要性が良く分かります。そもそも両方の飛行機に鳥が飛び込むというのは、前代未聞のことで、マニュアルがそこまで準備されていなかったわけですから、緊急アクシデントを救うのは、ベテランの判断でしかないというわけでしょう。

　サリーとジェフがパニックにならずに淡々と復旧作業を行うと同時に、ベテランそろいのフライトアテンダントが、乗客に対して、手順通りに案内と脱出誘導するのは、逆に普段のマニュアル、訓練がいかに大事かということも表しています。やはり緊急時の判断と普段からの準備双方が大事だということがわかります。さらに、救助に駆けつけるフェリーや警官、消防隊員の様子をみても、有事の際には１人１人の行動が支えになることも実感できます。9.11被害を受けたニューヨークの飛行機事故というのも、印象を強めています。

　また、リーマンショック直後のためか、サリーや妻のローリー（ローラ・リニー）が、会社をクビになったら、住宅投資のローンが払えなくなると恐れるのも、現代的です。パイロットという裕福な職業の人でも、一歩間違えれば生活苦になるというのも、これまた現代的でした。

　ベテランのトム・ハンクスとアーロン・エッカートは初のイーストウッド作品ですが、見事に世界観にはまってました。特にエッカートは、クレジットをみるまで、だれか分からないほど。ンディングで流れる実際の機長と乗客の再会映像は感動的です。