作品情報 2015年パレスチナ映画 監督:ハニ・アブ・アサド 出演:カイス・アタッラー、タウフィーク・バルホーム、ヒバ・アタッラー 上映時間:98分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:ヒューマントラストシネマ有楽町 2016年劇場鑑賞232本目
ブログ村のランキングです。よかったらポチッと押してください

にほんブログ村
【ストーリー】
2005年、パレスチナ・ガザ地区で歌が得意な少年ムハンムド(カイス・アタッラー)と姉のヌール(ヒバ・アタッラー)の夢はスターになってカイロのオペラハウスでコンサートを行うこと。だが、イスラエルの封鎖で物資もないガザでは、楽器をそろえることもままならない。また、少女が人前で歌うことは許されない。それでも、ムハンムドとヌールは友人たちとバンドを組み演奏に明け暮れるのだった。
だが、ヌールが重い病気にかかってしまう。ムハンムドは歌でお金を稼ぎ手術代にあてようとするが、お金も医薬品もなく、満足な治療も受けられないままヌールは命を落とす。7年後。大学へ通う学費をためるためタクシー運転手をしていたムハンムド(タウフィーク・バルホーム)は、カイロで「アラブ・スター」という、オーディション番組が開かれるのを知り、出場を決意する。だが、ガザからカイロに行くには密出国をしなければならず、見付かれば射殺される危険もあった…
【感想】
「パラダイス・ナウ」「オマールの壁」とパレスチナの若者の苦い青春を描いてきたハニ・アブ・アサド監督だけに、本作もどうなるかとハラハラしましたが、実話だけに、感動的に収めています。それでも歌手になりたいという他の国では当たり前のことができないパレスチナの現状をあますことなく写しています。
ムハンムドは当初、活発な姉のヌールに引っ張られる感じでした。どんなに生活が厳しくても、エネルギーの塊で夢に向かって賢明に走ろうとする子供たち。マクドナルド(劇中はワクドナルド)のハンバーガーを密輸して売りさばいたり、食い逃げした客をどついて料金を回収したり、前半は、大人とも渡り合うヌールやムハンムドの生きる力にエールを送りたくなります。
しかし、大きくなるにつれ、現実は容赦なく襲い掛かります。ヌールの病死もそうですし、そもそも、ガザという封鎖された都市からでられない運命にあがく若者達。現地ロケではイスラエルの空爆で破壊された建物があちこちでみられますし、秘密警察のスパイがどこにいるかわかりません。また、イスラム教の厳しい戒律では、歌はほめられる行為でない。そんななかで、精一杯、歌手を目指すムハンマド。
オーディションに参加した後も、ガザ出身ということで注目と期待を集め、わずか20歳そこそこで、パレスチナの希望の星というプレッシャーに押しつぶされそうになるなど、順風満帆とはいきません。それでも、彼の歌は、希望を失ったパレスチナの人にとって数少ないともしびでした。クライマックスでは、当時の実際の映像や町の風景が流れますが、彼の歌が、宗派も年齢も内戦の当事者すらまとめあげ、いかに偉大なものかがよく分かります。
上映時間が短いので、多少、はしょり気味のところもありますが、パレスチナの厳しい現状も良く分かります。実際、撮影にはイスラエル、ハマス、ファタハの3つの許可が必要で、俳優が検問でひっかかって来れなくなり、監督自らが演じた場面もあったとか。日本ではあまり取り上げられない題材なので、一人でも多くの人に見てもらいたい作品です。
【2016年に見た映画の最新記事】