2016年10月30日

永い言い訳

 また、今年ベスト級の作品の登場です。西川美和監督が、男の愚かさ、いやらしさ、そしていとおしさをちょっと突き放したトーンで描いた、女性監督ならではのラブストーリー。「ゆれる」「ディア・ドクター」など評価が高い監督ですが、彼女の最高傑作では。


 作品情報 2016年日本映画 監督:西川美和 出演:本木雅弘、竹原ピストル、深津絵里 上映時間:124分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:TOHOシネマズ川崎 2016年劇場鑑賞244本目



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 【ストーリー】
 津村啓というペンネームを使い、流行作家だが良い作品が書けずに悩んでいる衣笠幸夫(本木雅弘)は、イライラを長年連れ添った妻の夏子(深津絵里)にぶつけ、若い愛人、智尋(黒木華)との不倫を楽しんでいた。だが、智尋と自宅で一夜をともにした翌朝、旅行中の夏子がバス事故で死亡したことをしる。

 マスコミから悲劇の人と注目を集めた幸夫だが、夏子が死んでもなけなかった。遺族の会で、一緒に事故死した夏子の親友ゆき(堀内敬子)の夫、大宮陽一(竹原ピストル)と知り合う。陽一は幸夫とは逆に、人目もはばからず、妻の事故死を泣いていた。陽一は長距離トラックの運転手で夜に幼い子供たちの面倒をみられないという悩みを聞き、幸夫は週2回、陽一の息子、真平(藤田健心)と娘の灯(白鳥玉季)の面倒を見ることにする。子供のいない幸夫にとって、初めての育児にとまどうことばかりだったが…

 【感想】
 男にとってこれはつらい。けれども、絶望させる直前に引き上げてくれる絶妙さ。西川監督の手のひらに載っているようです。一番印象に残ったセリフは、幸夫が育児で子供たちと交流を深めている様子をみて、編集者の岸本(池松壮亮)が、「育児は男にとって免罪符。どんなに自分がクソだと思っても、育児をしている時は、その思いから逃げられる」というようなセリフをいったこと。僕なんかまさにその通りで、ぐさぐさきました。

 冒頭、幸夫の髪を切る夏子のシーンからはじまるというのも、ある種のエロチシズムとともに、幸夫が夏子へ母性を感じても女として見ていないということを表していて、これも男にとってはイタイシーンです。幸夫は端から見てもひどいわがままをいうけど、夏子に対する甘えでしかない。しかし、言われるほうからすればたまりません。

 さらに、夏子が出かけた後、夫婦のベッドに不倫相手を呼ぶのだから、幸夫は本当にクズ。智尋にすらあきれられるのは無理もありません。一方、事故後のマスコミへの対応などは、心ここにあらずだけど、著名人としての見苦しさをみせてはならないという虚勢も、彼の小心さを表しているようで、目を覆いたくなります。予告編でもあるテレビの撮影中に切れたことで、初めて人間らしさが垣間見えた感じです。ちなみに、テレビディレクター(戸次重幸)が慇懃無礼で、でも幸夫に輪を掛けてクズなのも、この作品の男はほんとうにだめなやつばかりという気がします。

 学もお金もない陽一のほうが、はるかに人間として正直。しかし、その陽一も心に傷を負っていて、おかしくなる寸前というのがそこかしこにでてきます。周囲の大人がこうだと、子供も強くならざるをえないけれど、がんばりすぎてこわれないかが心配。そこへ、女性に対しては子供だけど、子供に対しては大人という立ち位置の幸夫がうまくはまります。この話のうまいのは、子供たちによって、幸夫が再生するなんてありきたりのストーリーにせず、さらに、ひねってきていることでした。

 ラストシーンをどこにもっていくかは、観客のなかでも意見がわかれるでしょうが、僕は本作のラストシーンはすごい余韻があって好きです。男はバカでも、どこかいとおしくおもっている監督の思いが伝わってくるようでした。
posted by 映画好きパパ at 06:43 | Comment(0) | TrackBack(8) | 2016年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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