2016年11月19日

この世界の片隅に

 いやあ、本当に今年は素晴らしい邦画の連続ですが、ここに来て最高ともいえるアニメ作品が登場しました。戦前から戦後にかけての広島、呉を舞台に1人の少女の生き様を追った名作です。日本人なら絶対に見るべき作品でしょう。

 作品情報 2016年日本映画(アニメ) 監督:片渕須直 声の出演:のん、細谷佳正、小野大輔 上映時間:126分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:TOHOシネマズ川崎 2016年劇場鑑賞261本目



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 【ストーリー】
 戦前の広島市の漁村。すず(声・のん)は絵が上手な女の子だった。ちょっと天然が入っており、家族に愛されながらすくすくと育つ。まだ、戦争の影は薄く、町に買い物にいって10銭のキャラメルを買ったりするのが大好きだった。

 そんなすずも年頃になり見合いの話が持ち込まれた。相手は呉で海軍に文官として勤めている周作(細谷佳正)。戦況が悪化し、物資も乏しくなる中、周作の両親や姉、幼い姪の面倒を見ながら、健気に嫁としての仕事をこなしていくすず。しかし、とうとう呉も連日のように空襲に襲われ…

 【感想】
 大々的に反戦のメッセージは掲げないものの、当時、確かに生きていた登場人物達のささいな日常を積み重ね、戦争の悲惨さ、それでも生きる人々のたくましさを描ききりました。抑制したタッチの画風と、コトリンゴの牧歌的な音楽が、日常とその延長の戦争というものを再現しています。また、戦況が悪化するまでは、軍都ということもあり、遊郭があったり、ものがあふれているというのも初めてみる光景でした。

 それ以前に、戦前のすずが幼い頃からの描写を積み重ねているので、当時の子供たちのみる世界というのが色鮮やかによみがえっているのもすごい。広島や呉の町並みは可能な限り忠実に再現したそうで、だからこそ、スクリーンのなかで住んでいる人たちの息づかいというのが聞こえてくるようでした。

 戦争があっても、大部分の家庭ではそれまでの生活が急変するわけではありません。配給の食糧がとぼしくなれば、道ばたの野草を拾って調理する。着るものがなくなれば、昔の着物をもんぺに仕立てなおす。大切にとっておいた砂糖をアリにたかられてしまう。そんな些細な繰り返しというのが戦時下でも続いたわけです。

 最初は空襲警報で慌てふためいた一家も、やがては飛行機の音で、こちらは大丈夫と避難もしなくなる。そういった慣れというのも戦火の中の日常なのでしょう。死が隣り合わせで、ありふれたものになるというのもそう。親しい人が死んでも、行方不明になっても、次の日になればお腹もすく。そういうのをひっくるめて生きているということなんでしょうね。僕は原作漫画を読んでいないだけに、結構、びっくりしましたけど、そういった死すらありふれたものというのがかえって怖かったです。

 終戦後も戦争被害が終わらなかった広島。生き残った登場人物たちも、どうなるかは分かりません。同じ原作者の「夕凪の街 桜の国」では、戦後何十年たっても原爆症が苦しんでいる様子が描かれています。それでも、決して暗い気持ちで終わらず、人間の生きていることの尊さが刻み込まれるようなラストにしている本作は、秀作ぞろいの2016年のアニメ映画の中でも、まさに最高傑作といっていいでしょう。

 のんは独立騒動など演技以外のことでマスコミを騒がせました。しかし、本作のすずについては、彼女以外のだれも演じられなかったでしょう。他のキャラクターをプロの声優が演じている分、彼女のナチュラルな声というのが、物語を単なるアニメにしなかった功績があります。といって、よくありがちなアニメをぶちこわすような変な声でもない。片岡監督は前作の「マイマイ新子と千年の魔法」でも、声優でない福田麻由子を主演に起用していましたが、キャスティング力がすごい。次作が楽しみな監督になりました。
posted by 映画好きパパ at 07:18 | Comment(0) | TrackBack(12) | 2016年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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