2017年04月25日

午後8時の訪問者

 社会弱者を温かくかつシビアに描き続けているダルデンヌ兄弟の新作ですが、メッセージ性よりも、主役のアデル・エネルに惚れました。

 作品情報 2016年ベルギー、フランス映画 監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ、リュック・ダルデンヌ 出演:アデル・エネル、オリヴィエ・ボノー、ルカ・ミネラ 上映時間:106分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:ヒューマントラストシネマ有楽町 2017年劇場鑑賞70本目 



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 【ストーリー】
 下町の小さな診療所で臨時に医師を務めているジェニー(アデル・エネル)は、次々と貧しい患者が訪れる上、気弱な研修医のジュリアン(オリヴィエ・ボノー)の手際が悪くイライラの毎日。あと少しで大学病院に戻れるのを指折り数えている。

 ある晩、疲れ切ったジェニーはまたも使えないジュリアンに激しくしっ責する。そのとき、診療所のベルが鳴ったが、時間外として無視した。翌日、警察からベルを鳴らした若い黒人女性が遺体で見付かったが、身元不明だと告げられる。自分がドアを開けていれば彼女は死なずに済んだのではと激しく後悔するジェニーは、彼女の身元を突き止めようと診療の合間に患者に聞き込みをはじめる。一方、ジュリアンは出社拒否を始め…

 【感想】
 フランス(ベルギー?)の小さな診療所だと白衣を着ないで診察するのかというのが結構な驚き。地味なファッションだけど、動きやすいよう体にぴっちりしていて、不機嫌な顔を含めてセクシーなジェニー。何よりの魅力は、医師としての腕もありながら、エリートぶることなく、貧しい患者やジュリアンのような弱者に、常に自省をしながら、誠実に向き合おうとしているところです。

 こんな女医がいたら、惚れてしまうがな、と思いきや、ジュリアンにとってはうるさい姉のように感じたのでしょうか、あるいは自分の実力のなさを思い知らされたのか。また、事件の目撃者でジェニーの患者でもある少年ブリアン(ルカ・ミネラ)も、彼女に診察されたら思春期の少年だったらドキマギしそうなのに、そうした目ではみず、体だけでなく心の相談相手としても彼女を選びます。

 名探偵でもなんでもなく、ただ、無くなった見知らぬ女性の助けを無視するという自分の行為を恥じ、危険もかえりみずに聞き込みをはじめるというのも、彼女の日常の患者への接し方や全体的に抑制的なダルデンヌ兄弟の世界のなかでは、すんなり受け入れられるから不思議です。

 また、前作の「サンドラの週末」のように大上段に差別を訴えるのではなく、なぜ、黒人の彼女が死に至ったのか、移民である彼女の不遇な生活や、彼女を巡る社会の底辺のたちの、閉塞感にみちた生活をつむぎだすことで、かえって、社会の不穏感を浮かび上がらせることに成功しています。

 警官には警戒しても、貧しい家にも往診する医師にだからこそ話す住民たち。邦画やアメリカ映画ならもっとエンタメぽく盛り上げたでしょうが、さすがヨーロッパ映画。地道な視点が、医師だからこそ社会の矛盾にきずくというかたちで、心に残る佳作に仕上げました。
posted by 映画好きパパ at 06:56 | Comment(0) | TrackBack(5) | 2017年に観た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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