作品情報 2015年イタリア映画 監督:ガブリエーレ・マイネッティ 出演:クラウディオ・サンタマリア、ルカ・マリネッリ、イレニア・パストレッリ 上映時間:119分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:ヒューマントラストシネマ有楽町 2017年劇場鑑賞99本目
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ローマのチンピラ、エンツォ(クラウディオ・サンタマリア)は警察から逃げる途中に川へ飛び込んだところ放射性廃棄物のドラム缶につかってしまう。その日から体に異変が起きた。超人的な怪力に鋼の肉体を持つようになったのだ。
しかしその力を悪事に使っていたエンツォ。同じアパートに住む故買屋のセルジョ(ステファノ・アンブロジ)の麻薬取引に同行したものの思わぬトラブルに遭い、セルジョは死んでしまった。町のギャングのボス・ジンガロ(ルカ・マリネッリ)は、セルジョが麻薬を持ち逃げしたと疑い、彼の娘のアレッシア(イレニア・パストレッリ)を痛めつけようとする。見るに見かねたエンツォは彼女を助け出す。アレッシアはあるトラウマから心の病にかかり、自分が「鋼鉄ジーグ」の世界に生きていると信じていた。そして、エンツォのことを、鋼鉄ジーグの主人公、司馬宙(ひろし)だと信じ込む。
【感想】
予算にあかせて超人がうじうじとしているハリウッド製のアメコミ作品は好まないのですが、こういう地べたを這うようなヒーローものは大好きです。エンツォはこれまで負け続けの人生で、犯罪者といってもちんけな下っ端。超人的パワーでATMを破壊してお金を奪っても、好物のヨーグルトとHなDVDを大量に買いそろえるだけという、なんとも情けない限りです。
友達もおらず、周囲から馬鹿にされているのはアレッシアも同様でした。知的障害者の施設の入退所を繰り返し、自分がジーグのヒロインだと信じている彼女は、端から見ればあわれな存在です。お姫様のドレスがほしいといって、2人が行ったのがアニメのコスプレショップで、ぺらぺらのコスプレドレスを喜んでいる姿は何ともいえないわびしさが。しかし、彼女がおかしくなってしまったのは、やりきれない理由があり、終盤、それが明らかになったときには愕然としました。
心は幼児でも体は大人のアレッシア。彼女の周囲はそういう女性につけこむ卑劣な男ばかりでした。そして、ヒーローのはずのエンツォからの求愛も、男性不信の彼女にとっては、ほかの男と変わらないとみえたのに違いありません。一方、愛情などしらないエンツィオにとっては、女性の扱い方は従わせるものだけであり、このすれ違いがなんとも哀しい。
しかし、アレッシアの純真さがエンツィオを少しずつかえていきます。「父と地球を救ってほしい」と頼まれて、最初は馬鹿にしていたエンツィオも、人を愛することを通じて、人間が生きていくことのすばらしさを感じます。そして、一人一人の人生がかけがえのないことも。ヒーローになったエンツィオが名前を聞かれて「ヒロシ・シバ」と答えた場面は、胸が熱くなりました。現実にテロにおびえるヨーロッパでは、こういったヒーローが人々に求められているのでしょう。
一方、悪役のジンガロもキャラがたっています。イケメンでかつてはテレビの音楽番組に出演したのに、町の小さなギャング集団のボスにしかなれなかった自分。夢がやぶれて現実をいきるしかない彼にとって、超人的パワーをえたエンツィオは嫉妬の対象であり、許されない存在でした。さらに超短期で、手下を駒としか見ていない彼も孤独であり、ある意味エンツィオの映し鏡でしかすぎません。この悪役の人間くささも、ハリウッドのヒーローものとの違いを感じさせました。
予算の制約があり、町が次々に破壊されていくような場面はいっさいありません。けれどもヒーローにとって本当に必要なのは、熱い正義の心であることを思い出させてくれます。イタリアアカデミー主演男優賞、主演女優賞など5部門を制覇したというほど本国での評価は高いですし、日本の往年のヒーロー魂がこうしてヨーロッパで脈々と受け継がれていることを感じてもらうためにも劇場鑑賞をお勧めしたい傑作でした。ちなみにタイトルは原題のままで、イタリアでのポスターでもイタリア語と日本語でタイトルがかかれています。
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