作品情報 2016年セルビア、アメリカ、イギリス映画 監督:エミール・クストリッツァ 出演:エミール・クストリッツァ、モニカ・ベルッチ、スロボダ・ミチャロヴィッチ 上映時間:125分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:TOHOシネマズシャンテ 2017年劇場鑑賞181本目
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【ストーリー】
戦場の最前線にある山村。コスタ(エミール・クストリッツァ)はロバに乗って相棒のハヤブサを肩に載せて、牛乳を最前線に届ける仕事をしている。コスタにミルクを提供している農家の美女ミレナ(スロボダ・ミチャロヴィッチ)はコスタに惚れており、彼の花嫁になるのが夢だった。
戦場の英雄であるミレナの兄ジャガ(プレドラグ・マノイロヴィッチ)が、村に帰ってくることになった。ミレナは難民の女性(モニカ・ベルッチ)をジャガの花嫁にして、自分とコスタとダブル結婚式を挙げようと企む。ところが、コスタとジャガの花嫁が惹かれあってしまい…
【感想】
ユーゴの内戦を経験したからこそのクストリッツァ監督ですが、何となく不幸なことはいっぱいあるけど、人生は歌って踊ればハッピーエンドという作風の感じがしていました。本作でも、弾はとびかうし、迫撃砲の攻撃はどんどんでるなか、戦争はどこか日常の一部となり、休戦になって結婚が決まったとなると、脳天気な音楽で村中が踊り狂います。こういう人生賛歌の作品かと思いました。
モニカ・ベルッチも50歳をこえるとヨーロッパの宝石といわれた美女ぶりは控えめになり、まだ30代のスロボダ・ミチャロヴィッチのほうが美人にみれます。けれども、コスタと花嫁はともに戦争でつらい過去があり、容姿よりも心でつながったというべきでしょうか。2人の美人にはさまれ、渋い中年イケメンのコスタの、困ったような表情は目に焼き付いてしまいます。
ところが、英国をはじめとする多国籍軍の介入で物語りの様相は一変してしまいます。ユーゴでも中東でも、現地の争いに大国が介入してきました。日本にいる僕らは遠い世界のようにかんじた人が大部分でしょう。でも、当事者にとってみると、内戦だろうが多国籍軍だろうが、平和を脅かす存在には変わらないわけで、ユーゴ内戦の悲劇を体感しているクストリッツァ監督ならではの、戦争への怒り、日常が断ち切られる異常さが真正面から描かれています。
さて、寓話的な存在として多くの動物がでてきます。冒頭、農夫たちに屠殺される豚の血をつかって、アヒルたちはハエをおびき寄せた食べてしまいます。大国に好きなようにもてあそばれたあげく、解体されたユーゴの象徴なのかなと思ってしまいました。このほか、蛇、羊、熊など多くの動物がでてきます。それぞれどんな意味があるのか、見た人によってとらえかたはちがうでしょう。忘れてはいけないのは、戦争は人間だけでなく、動物も家も自然も破壊してしまうということ。僕はエンドロールの「この映画で動物は傷つけていません」の表記に、これほどほっとした作品はありませんでした。
ラストまで貫く深い愛情の表現というのも、一種の寓話でしょう。それでも、どんなにつらい目にあっても、やはり人間を人間たらしめるのは愛なのかな、とつい陳腐なことを思ってしまいました。
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