「新感染」「ソウル・ステーション」のヒットをうけ、ヨン・サンホ監督の4年前の作品が日本でも上映されています。ゾンビという寓話だった「新感染」と違って、リアルな話だけに人間の悪意と愚かさがむき出しでぶつかり、衝撃的な作品となっています。、
作品情報 2013年韓国映画アニメ 監督:ヨン・サンホ 出演:ヤン・イクチュン、クォン・ヘヒョ、オ・ジョンセ 上映時間:101分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:渋谷ユーロスペース 2017年劇場鑑賞208本目
ブログ村のランキングです。よかったらポチッと押してください
にほんブログ村
【ストーリー】
ダム建設で水没が決まった山村。補償金目当てで、ギョンソク(クォン・ヘヒョ)率いるインチキ宗教団体が村に教会を設置し、村人から金を巻き上げようとする。純朴な村人はすっかりだまされていた。そこで村出身の中年のチンピラ、ミンチョル(ヤン・イクチュン)が久々に戻ってくる。
妻子までも教会を信じ込んでいるのをみたミンチョルは、ギョンソクと飲み屋でトラブルになったのをきっかけに、彼らが詐欺師集団だと見破る。しかし、村人から嫌われているミンチョルがいくら力説しても、村人は相手にせず、うしろミンチョルが悪魔に取り憑かれたと追い払う始末。そして事態はどんどん悪化していく…
【感想】
幸せとは何か、生きる意味とは何か、根源的な意味を考えさせられる大傑作でした。まず、奇蹟をうたって怪しげな水を売りつけるインチキ宗教団体にだまされるのは不幸です。金銭どころか、薬も飲まずに教会の水ばかり飲んでいて病状がどんどん悪化する女性もでて、命にもかかわります。端から見ていれば不幸だし、こんなインチキ団体にひっかかるのは愚かであるといえます。
しかし、当事者からすれば、だまされて悲惨な現実から目をそらしてくれるほうが幸せなのです。教会の水ばかり飲んでいる女性は、貧しい暮らしをしており、村の外に遊びにいくこともできませんでした。しかし、教会を信じ切ることで、自分は死後、天国にいけると確信しています。今の辛い生活は天国に行くための試練であると。彼女の夫はミンチョルの唯一といっていい友人で、善良だけど賢い人物と描かれています。しかし、その彼ですら、病気の妻が苦しまず、むしろ幸せにみえるのならば、宗教は本物だと信じてしまいます。
一方、ミンチョルはとんでもない男で、酒を飲んでは妻子に手をだすし、娘のヨンソン(パク・ヒボン)の進学費用もばくちにつぎこんでしまいました。悪智慧があるだけに、ギョンソクたちのインチキを見破るわけですが、ミンチョルの家族こそ、どうしようもな不幸から救われたいと熱心な信者になるという何ともやりきれない方向にどんどん話が進んでいきます。
話がうまいのは教会のソン牧師(オ・ジョンセ)は若くて誠実な人物と描かれているのです。ソンはかつて正しいことをしたがゆえに、世の中から追い払われてしまいました。彼はうすうすギョンソクが詐欺を働いていることに気づいていますが、自分の理想の教会を作るために、割り切って手を組みます。苦しむ人には心から寄り添い、自分の説教も信じている。だからこそ村人たちに、自分たちを救ってくれるカリスマだと思われても当然です。後半、ある奇蹟が牧師の身に起きます。それが、牧師の幻想なのか、本当の奇蹟かわかりませんが、少なくとも自分の信心を信じ切っていることはまちがいなく、それゆえに村人は詐欺師たちに金を払うという屈折した構造になってしまいます。
偽りの幸せか、苦い現実か。その二つを迫られてたとき、人はどう行動するのでしょう。村人が因習深くなく、生活にもゆとりがあったら、簡単にはだまされなかったかもしれません。しかし、村というコミュニティーが解体され、金があったとしてもすぐ悪い人にだまされてしまうような金銭リテラシーのなさならば、このインチキ宗教にひっかからなくても、やがては孤独で貧乏に陥ることは容易に想像がつきます。そんななか、偽りの幸せにひっかかっても、それが良いとか悪いとかいわくいいがたいものがあります。さらに、その幸せを壊す者は共同体の敵とみなされることも、納得はできないけど理解できます。しかも、ソン牧師よりもミンチョルのほうが、これまで村に迷惑をかけまくってきたからなおさらです。
そうした、何が正しいと言えないまま、登場人物たちはどんどん不幸になっていきます。終盤、それぞれ思いがけないことが起きるのでしょうが、ラストカットも含めて、かれらがどんな心境だったのか、考えるだけでも恐ろしい。本当に人間の深い闇を描いた作品になっています。
【2017年に観た映画の最新記事】