2017年12月19日

ありふれた悪事

 1980年代の韓国民主化運動を背景に、名も無き庶民がふとしたきっかけで権力の犠牲となり、転落していく悲劇を描きました。韓国映画らしい重たい作品です。

 作品情報 2016年韓国映画 監督:キム・ボンハン 出演:ソン・ヒョンジュ、チャン・ヒョク、キム・サンホ 上映時間:121分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:シネマート新宿 2017年劇場鑑賞242本目



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 【ストーリー】
 民主化運動で騒然とする韓国。刑事のソンジン(ソン・ヒョンジュ)は優秀だが世渡り下手で犯人を逮捕できても出世はできない。小学生の息子は足が不自由でいじめられ、聴覚障害のある妻(ラ・ミラン)は袋貼りの内職で家計を支えるなど、厳しい生活だったが、一家3人仲良く暮らしていた。昔なじみの親友で、新聞記者ジェジン(キム・サンホ)と安酒を酌み交わすことが、唯一の楽しみだった。

 ところが、ソンジンの優秀さを見込んだ、国家保安院のギョナム室長(チャン・ヒョク)に呼び出され、特殊捜査を命じられる。ソンジンが逮捕したチンピラ(チョ・ダルファン)が連続猟奇殺人犯だというのだ。実は、これは民主化運動から世間の目をそらそうと国家保安院が仕組んだ冤罪事件。ソンジンは、ジェジンから冤罪の証拠をつきつけられるが、出世や家族の幸せのために、冤罪を積極的に作り上げていく…。

 【感想】
 原題は普通の人。犯罪は憎むものの人情味のあるごく普通の刑事が、最初は気づかないうちに権力の手先になり、やがて、抜き差しならぬ羽目に陥って苦悩する様子は見ていてやるせなさすぎです。国家保安院から、犯人逮捕の褒美としてぴかぴかのジープをもらい、高価な足の手術費も出してもらいます。大喜びの子どもに、「実はそれは悪いことをしてもらったんだ。お前は手術をできない」と親としていうことはできません。

 それ以上に悲惨なのは冤罪を押しつけられた犯人の男です。知的障害があり、車の運転もできないのに、連続殺人犯にでっちあげるため、連日、殴る蹴るの暴行を受けながら取り調べが続き、ついに、やってもいないことを認めてしまいます。冤罪と分かって暴力をふるうソンジンもつらいでしょうが、独裁国家ではこういう悲惨な目にあう無実の人が大勢いたと思うと、恐ろしすぎます。

 その一方で、ギョナム室長は権力を謳歌します。コネとカネがすべてを決める韓国社会では、エリート同士は夜な夜な豪勢な宴会をして、普通の人々の運命を酔っ払った勢いで決めていってしまいます。そして、ソンジンなんかは犬でしか過ぎない。韓国らしく犬を食べるシーンがあるのですが、それで自分の運命を悟ってしまうという脚本は見事でした。

 そんななか、酔っ払いにみえてもジェジンは冤罪が国家の犯罪だと調べ上げ、スクープしようとします。しかし、国家の前にはいかに新聞記者といえども無力な存在にすぎません。会社の上層部は政府の顔色をうかがうし、秘密警察のスパイが回りをうようよ。それでも正義を突き通そうとするジェジンは立派ですが、家族がいるソンジンはどうなるのか。ささやかな幸せだった家族を守るために、良心を失ってやつれていく姿は本当に胸が痛い。

 実際、こういう独裁国家の生命の危機でなくても、日本でも上司にいわれたからといって企業犯罪に手を染める人はいっぱいいるのだから、ごく普通の人のありふれた悪事というものでこの世はあふれており、単純に断罪できるかという考えをこちらに突きつけます。

 終盤、悲劇は悲劇を呼ぶというのか、韓国映画特有の救いのない出来事が次々と起きていきます。「ビジランテ」の桐谷健太がいたぶられる姿もえぐかったけど、こういうプロによる拷問というのは、本当に痛そうです。でも、この映画はフィクションですが、似たような冤罪事件で拷問死されたケースは実際にあります。1980年代後半といえば、日本はバブルで盛り上がっていたころ。にもかかわらず、隣国がこういう救いようもない社会だったとは。人間の尊厳とは何なのか、しみじみと考えさせられました。

 それにしても韓国の映画は、冴えない顔の中年男が主人公の名作が多いですね。
posted by 映画好きパパ at 07:35 | Comment(0) | 2017年に観た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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