作品情報 2017年フィンランド映画 監督:アキ・カウリスマキ 出演:シェルワン・ハジ、サカリ・クオスマネン、シーモン・フセイン・アル=バズーン 上映時間:98分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:角川シネマ有楽町 2018年劇場鑑賞3本目
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【ストーリー】
シリアの家が空爆の被害にあった青年カリード(シェルワン・ハジ)は家族で唯一生き残った妹ミリアム(ニロズ・ハジ)と難民となり、国外に脱出する。ミリアムとはぐれてしまったカリードは、貨物船に隠れてフィンランドに密入国する。難民認定をうけ、ミリアムを探して呼び寄せようとするが、申請は却下されてシリアに送り返そうになり、収容所を脱出する。
ヘルシンキの中年セールスマン、ヴィクストロム(サカリ・クオスマネン)は単調な仕事と酒浸りの妻(カイヤ・パカリネン)に愛想をつかした。仕事を辞めて、家をでて、なけなしの金でレストランを開業する。そこへ寝る場所にも困ったカリードが現れて…
【感想】
難民問題はヨーロッパをはじめ世界を揺るがしています。日本の場合、極端に難民認定が少ないこともあり、なかなか身近に感じないかもしれませんが、今なお多くの難民が出ています。ヨーロッパ諸国で難民排斥の動きが広まる中、カウリスマキ監督は静かな怒りで、難民も同じ人間であり、困った人を助けるのは人として当然ではないかということを訴えています。
カリードは激戦地アレッポの出身ですが、フィンランドの入国管理局は「シリアでは戦闘は起きていない」と決めつけて、彼を国外追放しようとします。その日のニュースでも、アレッポで多くの子供が空爆で犠牲になっていることを伝えているのに。入管の職員や警官などは、機械のように淡々と仕事をしています。仕事をすること自体が仕事になっており、結果に目を向けません。ヴィクストロムの店の検査に入った役人もそうで、検査の手続きさえすれば実情がどうなろうと関係ない、まさに役所仕事です。
また、フィンランドでも過激な右翼は存在して、アラブ人とみるだけで、マッチョなチンピラに絡まれてしまいます。その一方で、冷酷な仕事人間にみえたヴィクストロムや彼の店の従業員は、警察からカリードをかくまいます。さらに、右翼に襲われたカリードを助けたのはホームレスの障害者たちでした。何の得にもならないのに他人を助けようという善意を持った人は、貧しい庶民の中にもたくさんいるのです。しかし、国という機構になるとそれは認めません。
イスラム過激派テロの警戒もありますし、難民を何でも受け入れろというのは難しいし、職員の人数も限られているでしょう。それでも、豊かな先進国はもう少し何かできるのではないか、深く考えさせられます。
とはいえ、しかめっつらして観るような作品ではなく、カウリスマキ独特の妙なテンポは健在。本編とほとんど関係ないのに、ヴィクストロムが、開店資金を集めるために、裏カジノでポーカーをするシーンが延々と流れたり、客がこない店を繁盛させるために、なぜか突然スシレストランをはじめたり。こういう脇道のおかしなところをふんだんに盛り込むことで、かえって、問題の奥深さを感じさせます。ちなみにスシレストランでは日本語の曲がBGMになったりと、妙に日本押しのところが笑えました。
シェルワン・ハジはシリア出身で、映画初出演。それでも、貧しい彼がホームレスに寄付したりして、演技だけでなく内面も優しい人だろうなということが伝わってきます。収容所で知り合うイランからの難民マスダック(シーモン・フセイン・アル=バズーン)も含めて、中東系の人がヨーロッパ映画にすんなり溶け込んでいるというのは、まさに今の時代を象徴しているといえるでしょうね。タイトルも余韻があって印象的です。
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