2018年01月28日

花筐/HANAGATAMI

 末期がんで余命3ヶ月の宣告を受けた大林宣彦監督の鬼気迫る集大成ともいえるべき作品。小さくまとまった映画が多い中、多少の矛盾を蹴飛ばしながら、映画とは映像、音楽、ストーリーの総合芸術であることを思い知らしめます。

 作品情報 2017年日本映画 監督:大林宣彦 出演:窪塚俊介、満島真之介、常盤貴子 上映時間:169分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:TOHOシネマズ川崎 2018年劇場鑑賞19本目





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 【ストーリー】
 昭和16年、親元を離れて佐賀県の唐津大学予科に入学した榊山俊彦(窪塚俊介)は、近所に住む叔母の圭子(常盤貴子)と従姉妹の美那(矢作穂香)のもとを頻繁に訪れる。美少女の美那に恋した俊彦だが、彼女は肺病で余命いくばくもなかった。

 俊彦は予科の同級生で、ギリシア彫像のように美しいが寡黙な鵜飼(満島真之介)と病気で足が不自由だが修行僧のように厳しい吉良(長塚圭史)と友人になる。鵜飼の恋人のあきね(山崎紘菜)と、吉良の従姉妹の千歳(門脇麦)は美那の親友だったことから、6人は青春を謳歌する。だが、戦争の影は次第に色濃くなり…

 【感想】
 とにかく情報量に満ちあふれて、こちらの脳内の処理が追いつかなくなります。冒頭の美那が血を吐くシーンとかちゃちな合成が延々つづくし、まるで朗読劇のような早口の台詞のオンパレード、鼓とバッハが不協和音すれすれのように同時に鳴り響くBGMなど、最初は見ているこちらが混乱してきました。

 けれども、いつしかその不協和音ぶりが心地よくなってきます。学校のすぐそばに海があっても、巨大な月をバックに美少女が血を吐いても、登場人物の左右の配置がどんどんいれかわっても、まるで魔法にかかったように、物語の世界に引き込まれていきました。

 戦争体験者として、反戦をうちだしている大林監督ですが、戦争そのものに単に反対するというよりも、本来自由であるべき青春を束縛することや、命を粗末にすることへの強い憤りが伝わってきます。恋も友情も人生で一番楽しい時期なのに、死の影が覆い被さります。足の不自由な吉良は兵士としては使い物にならない、当時としては不良品です。肺病の美那も銃後を守る女性としては不適切です。一方で、裸の筋肉を疲労する鵜飼が軍服を着ている様子がさまになったように、当時の価値観として若者は単なる駒でしかありませんでした。そんなことが許されるはずがない。決して声高にかたっているわけではないのに、見ているこちらの胸がいっぱいになっていきます。

 それを取り巻く脇役もいい。武田鉄矢の医師役がはまっていましたし、ほとんど台詞のない憲兵(細山田隆人)と彼を送り出す娼家の女将(池畑慎之介)、お調子者の同級生、阿蘇(柄本時生)など、みな存在感を放つキャラクターになっています。また、ご当地映画でありますが、唐津くんちのこの世とあの世をつなぐようなファンタジックなシーンも見応えがあります。

 そして、吸血鬼的な幻想もそうですし、百合シーンもそうですが、大林的な美少女の魅惑的な世界も本作はしっかりしています。矢作は超絶美少女に見えるシーンが結構あって、常磐ともども性的なイメージもしっかり描かれています。もちろん、露骨なヌードはありませんが、むしろ隠すことによってかえって尋常でない美しさが描かれていきます。そして、その2人と対比すべき満島の裸の美しさ。満島、長塚、窪塚ともいまさら学生を演じる年ではないのに、若手女優3人と同じ世界にはまってみえるのは、まさに大林監督のマジックでしょう。

 幸い、大林監督の治療はうまくいったそうで、次回作も期待したいところですが、少なくとも本作は、大林監督の現段階の最高峰といえるべき作品ですし、好き嫌いは分かれるでしょうが、邦画ファンなら、今の時代だからこそ、見るべき作品といえるのではないでしょうか。
posted by 映画好きパパ at 06:37 | Comment(0) | 2018年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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