作品情報 2017年アメリカ映画 監督:ギレルモ・デル・トロ 出演:サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス 上映時間:124分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:TOHOシネマズ川崎 2018年劇場鑑賞58本目
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【ストーリー】
冷戦まっただなかの1962年。口の聞けない掃除婦のイライザ(サリー・ホーキンス)が、夜になると職場である政府の研究所で清掃の仕事をしにいっていた。家族も恋人のいない単調な毎日。隣人のゲイの老人ジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)と古いミュージカルをテレビでみて、職場では同僚のゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)の夫への愚痴を聞くぐらいが関の山だった。
ある晩、研究所の警備が強化され、エリート軍人のストリックランド(マイケル・シャノン)が責任者としてやってくる。そして、アマゾンで捕まえたという半漁人のような不思議な生物が連れてこられた。鎖で縛られ水槽のなかに閉じ込められた生物に最初は驚いたイライザだが、生物には知性、感情があり、次第に心がふれあっていく。だが、軍は生物の解剖を決定して…
【感想】
「美女と野獣」が若いブロンド美人と、魔法が解けるとイケメンになる野獣の恋物語はおかしいという出るデル・トロ監督。そうですよね、内面の美しさが重要といっているのに、結局は若い美男美女の物語になっているのですから。だから、デル・トロ監督は、中年の冴えないおばちゃんと、グロテスク(でも慣れるとかわいさもある)な半漁人を主人公に据えました。そして、見終わるとこの組み合わせのほうが、「美女と野獣」よりもはるかに純愛を描いていることに心がうたれます。予告篇にあるように、半漁人はイライザの外見とか障害とか関係なく、ありのままの彼女の中身を見ているわけです。
また、序盤、味気ない生活をしていたイライザが、半漁人の出会いによってどんどん恋する乙女になっていく描写もすばらしい。服も明るい赤っぽくなり、気になっていた靴も買いました。そして、半漁人を助けるためにありったけの知恵と勇気を出します。人間はいくつになっても変われるんだと心が熱くなります。
一方、悪役ともいうべきストリックランドは、古き良きアメリカを体現する人物でもあります。武功を立てた軍人で、美しいブロンドの妻と2人の子供、郊外の広い一戸建てにフォードの新車。彼が悪役といっても、アメリカが冷戦に勝つために半漁人を扱っており、それで出世を狙うというのは、当時のアメリカのエリートとすれば当たり前のことでしょう。彼が読んでいた「ポジティブシンキング」の本は「ファウンダー」でマクドナルド創業者のレイ・クロックの愛読書でもあります。トランプ大統領が「アメリカファースト」ということは、こうした時代を受け入れること。それに対する強烈なアンチテーゼでもあります。
もう一つ、イライザを助ける仲間たちは、ゲイの老人、黒人、オタクの博士(マイケル・スタールバーグ)といった面々。今ですらマイノリティーですが、1962年という時代を考えると、まさに世間から迫害されている面々が集まって、アメリカのマジョリティーの暴挙に対抗しようというのです。ジャイルズの行きつけのパイ屋のイケメン店員が、一見好青年に見えて実は差別主義者だったように、人間は見かけでなく中身こそが重要ということがよく伝わってきます。
イライザと半漁人の心がつながり、やがてロマンスになっていく描写はなんとロマンチックなことでしょう。往年のミュージカルや甘いラブソングの数々、そしてクラシックな町並みに雨が降る描写もふくめて、本当に夢の世界につれていかれたようです。しかし、世の中はそんなに甘くありません。
実際にこういうことが起きたら、アメリカ軍が総力を挙げてつぶしにかかるでしょうが、そこは童話というか寓話にるすことで、愛と正義という現在に通じる難問を背景にうまく据えています。オスカーの監督賞、作品賞などを受賞した本作品ですが、個人的にはサリー・ホーキンスに主演女優賞がいけばよかったのになあ。それでも、映画会社からの圧力をはねのけ、監督が自腹をきってまで伝えたいものを作ったこの作品が今のアメリカでこれだけ受け入れられると言うことも、何か象徴的だと思いました。おまけに、はげを直してくれるなら、僕も大歓迎です
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