2018年09月18日

1987、ある闘いの真実

 「弁護人」「タクシー運転手 約束は海を越えて」「ありふれた悪事」など韓国の民主運動を描いた作品が最近、日本でも公開されていますが、本作はその集大成ともいうべき1987年の民主化運動にスポットをあてています。民主化側の主人公はころころ変わるのですが、悪役のキム・ユンソクの存在感が素晴らしい。さすがポリティカルな題材を扱う映画は世界でも一級の韓国といえました。

 作品情報 2017年韓国映画 監督:チャン・ジュナン 出演:キム・ユンソク、ハ・ジョンウ、ユ・ヘジン 上映時間:129分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:シネマート新宿 2018年劇場鑑賞209本目



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 【ストーリー】
 1987年、民主化運動をしていたソウル大生パク・ジョンチョル(ヨ・ジング)が、韓国秘密警察の拷問で取調中に死亡する。捜査責任者で治安本部対共捜査所長のパク・チョウォン(キム・ユンソク)は遺体を火葬し、事件を隠蔽するよう指示する。だが、ソウル地検のチェ公安部長(ハ・ジョンウ)は強引に隠蔽しようとするパク所長に反発し、解剖を命令。マスコミにその結果をリークする。

 窮地に陥ったパク所長は、部下のチョ刑事(パク・ヒスン)ら2人に因果を含め、トカゲのしっぽ切りをしようとする。刑務所でパク所長らの謀議を聞いた看守のハン(ユ・ヘジン)は、真犯人がほかにいることをしり、姪のヨニ(キム・テリ)をメッセンジャーとして逃亡中の民主化運動の大物、キム・ジョンナム(ソル・ギョング)に情報を伝える。一方、政治には関心のなかったヨニだが、町で偶然デモと遭遇し、民主化運動家と間違えられ警官に追われる。逃亡中の彼女を助けたのは、大学の先輩のイ・ハニョル(カン・ドンウォン)だった。ヨニはハニョルに恋心を抱くのだが…

 【感想】
 横暴極める軍政に検事、看守といった公務員も含め、心ある人はおかしいと思っていたのでしょう。それぞれが危険も顧みず自分のできることを少しずつして、それが国をも動かす力になった。ヨニが「デモなんかしても何も変わらない」という場面がありますが、それでも多くの人が行動した結果、民主化につながったというのは本当にすごい話です。逆にいえば、だれか一人でも怖じ気づいて動かなかったら、このときの民主化はできなかったでしょう。ヨニは架空の人物、ハンは複数の看守をあわせているそうですが、それ以外はすべて実名であり、制作者側の歴史の秘話をきちんと伝えようという強い意志を感じさせられます。

 民主化運動側は前半はチェ検事、中盤は圧力に負けずにスクープを書いた東亜日報のユン記者(イ・ヒジュン)、後半はハンとキム・ジョンナム、終盤はヨニとハニョルというように視点がかわっていきます。しかし、それらの前に巨大な壁としてたちふさがるのが、パク所長。この手の映画にありがちな賄賂や女にきたない俗物ではなく、韓国が共産化しないために文字通り命がけで戦ってきた男です。確かに、拷問死はあってはいけないことですが、南北の対立が今以上に激しく、テロ事件も頻発したこのころにあって、パク所長の存在意義というのは確かにあり、彼を深みのある人物と描くことで、凡百のヒーロー映画とは一線を画しています。

 また、歴史の事実を伝えつつ、わかりやすさも配慮しています。日本版だけかもしれませんが、「仁義なき戦い」のように登場人物が初めて出てくる場面では、氏名、肩書きが明朝体でカタカタとタイプライターの文字のようにでてきますし、重要な日付もでてきます。そして、前半の主役だったチェ検事が後半ほとんど出てこないように、人物もきちんと整理されています。また、緊張したシーンが続いた後は、クスリと笑えるようなところもちゃんといれています。そして、韓国映画得意のクライマックスへの盛り上げ。本当に一級のエンタメ映画です。

 それにしても1987年は僕は高校生であり、登場人物でいえばヨニと同じ年になります。しかし、隣の国でこれほどの事件が起きているとは全然知りませんでしたし、まして、18歳の自分が命がけで民主化運動に携わることなど夢にも思わなかったでしょう。また、新聞、宗教界ら知識層の正義への思いも日本では考えられないことです。

 ただ、豪華スター登場の大作ですが、パク・クネ政権が続いていたらとてもこれほどの作品は作れなかったとチャン・ジュナン監督はインタビューで答えています。そして、まっさきに出演を決めたカン・ドンウォンに感謝をささげています。韓国政治の恐ろしさと日本に生まれたことの幸せなど、感動とともにいろいろ深く考えさせられる作品でした。


posted by 映画好きパパ at 07:37 | Comment(0) | 2018年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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