2018年09月21日

飢えたライオン

 ネット流されたデマがあっという間に拡散し、地獄のような日々に落とされた女子高生の悲劇。実際に現実にあってもおかしくなく、ホラーよりも怖い作品といえましょう。

 作品情報 2017年日本映画 監督:緒方貴臣 出演:松林うらら、水石亜飛夢、筒井真理子上映時間:78分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:テアトル新宿 2018年劇場鑑賞212本目 



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 【ストーリー】
 高校2年の瞳(松林うらら)はクラスの人気者。優しい恋人のヒロキ(水石亜飛夢)もいて幸せな毎日を送っていた。ところが、ある日、クラス担任の細野(小木戸利光)が未成年への淫行容疑で逮捕される。そして、細野と女子高生の性的動画がネットに流れ、相手が瞳だという噂が広まる。

 身に覚えのないデマに最初は反発していた瞳。だが、クラスではいじめの対象になり、ヒロキとは音信不通に。母の裕子(筒井真理子)も真剣にはとりあわない。やがて瞳はどんどん孤立していき…

 【感想】
 ネットの世界は誹謗中傷が簡単にながれ、時には刑事事件になることも。予告篇に現実でネットでデマを流され大変な被害を受けたスマイリー・キクチさんがコメントを寄せていますが、実際にそういうことは起きており、しかも、社会知識も弁護士に頼る金もない女子高生は、なすすべもなく、地獄のような日々を過ごすことになります。

 客観的に観れば、瞳もうかつな行動はありました。ヒロキとのラブラブの動画をSNSに上げたことで、淫乱女子高生というレッテルがはられてしまいます。SNSはカギをつけていてもだれが拡散するかわからない怖さがあり、絶対にこうした動画をあげてはいけないのですが、多くの高校生は身近に感じないし、親も学校も対処のしようがありません。

 裕子もシングルマザーだし、普通の中年女性にSNSの怖さといってもピンとこないでしょう。また、学校側も事なかれ主義に徹しており、これも現実を映し出しています。惜しむらくはマスコミの描写がありがちだったことで、「少女は何度でも殺される」とあるように、ネットの被害、周囲からの風評、そして心ないマスコミとそれぞれの層を象徴したかったのでしょうけど、マスコミがこうした場面でマスゴミなのは、もはや社会の常識になって驚きがないともいえますしね。

 それでも今風なのは、直接的ないじめをするクラスメートはともかく、まったく彼女のことをしらない遠くの人たちが瞳の動画だとされるネット動画を揶揄したり、薄気味悪いネットオタク風の男が電凸しようとしたり、自らを正義だと信じ込んで、勝手に気に入らない対象を攻撃したり、笑ったりする現代の病理を鋭く描いている意欲的な作品です。

 撮影手法も意欲的で、基本的に固定カメラの長回しによる長くても数分のカットを暗転を交えてつないでいきます。何気ないシーンも重要なシーンも同じように撮影しているため、観ているこちらは最初から最後まで緊張を解くことができず、見終わった後どっと疲れました。さらに、最後は第四の壁を破って、観客にお前だったらどうするとむき身の刃のように突きつけてきます。無音のまま流れるエンドロールもあいまり、これだけ真っ正面から重い作品を撮る緒方監督の意欲と力量が伝わってきました。

 出演者のうち、事前に認知していたのは「青夏」に出ていた水石だけ。フレッシュな顔ぶれが、ナチュラルに女子高生の日常に溶け込んでいるようにみえ、公式サイトで確認すると20代半ばの女優が多いことに、びっくりしました。主役の松林も初めてみた女優ですが、幸せの絶頂からどん底に落とされるまでの表情、仕草、オーラが完璧。最近インディーズ映画をみることが多いだけに、日本の若手俳優陣の層の厚さには舌を巻くしだいです。
posted by 映画好きパパ at 07:29 | Comment(0) | 2018年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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