作品情報 2018年日本映画 監督:吉田恵輔 出演:安田顕、ナッツ・シトイ、木野花 上映時間:137分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:TOHOシネマズ川崎 2018年劇場鑑賞214本目
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【ストーリー】
新潟の農村で、パチンコ店で働く宍戸岩男(安田顕)は40過ぎても独身で、痴呆が始まった父源蔵(品川徹)と、なにかと過干渉の母ツル(木野花)と要求不満の毎日を暮らしていた。
パチンコ店の同僚でバツイチの愛子(河井青葉)と深い仲になったものの、ツルに邪魔されて分かれさせられた岩男はとうとう切れて、両親に黙ってフィリピン女性と見合いをし、アイリーン(ナッツ・シトイ)を嫁として連れて帰る。ところが、源蔵が急死し、岩男とアイリーンが到着したのは葬儀の日だった。怒り狂ったツルは猟銃を突きつけ2人を別れさせようとうるのだが…
【感想】
「ヒメアノール」のように直球で人間の嫌なところをこれでまかとみせつけるとともに、それがゆえに愛するということがいかに尊いものかをわからせてくれるという、見ているこちらの価値観を問われる作品です。愛は岩男とアイリーンだけでなく、完全にゆがんだとはいえツルと源蔵、ツルと岩男といった親子、夫婦の愛情というものもあり、美しいだけではどうしようもないことをあらわしています。
いかにも日本的な閉鎖社会の農村。噂が大好きで根も葉もないことがさもありなんと伝わっていきます。そして、その縮図ともいえる宍戸家。ツルは完全にモンスター母ですが、たいした家柄でもないだろう宍戸家の「イエ」を後生大事にかんがえ、たった一人の子供である岩男を溺愛します。そして、岩男も気が弱いために母にさからえず、でも、それで鬱積した怒りが内面にたまっていく。このまさに日本的な母子の構図を、真正面から取り上げているのにうならされました。
もう一つ、金と愛の問題。フィリピンの下層階級のアイリーンにとり、家族を助けるために自分の体を差し出して結婚しました。中盤、重要な役割を似合うブローカーの塩崎(伊勢谷友介)がそんな結婚と恋愛がどう違うのかと指摘しますが、金で結婚しても、自分の処女は愛する人にささげたい。そんなアイリーンの拒絶に、女性経験が少ないだろう岩男は立往生します。自分は300万円払って結婚したのに、性欲の処理もできないのかと。結婚にとって性というのは超重要なファクターですし、金も必要でしょう。でも、心がなければ果たしてどうなのか。そんな問いをもつきつけます。
そろいもそろって人間性の一部が欠落し、鬱屈をかかえているなか、アイリーンの出会う英語ができる僧侶、正宗(福士誠治)が一服の清涼剤です。けれども、そんな薄っぺらいきれいごとが通用するのか、この映画での正宗の取り上げ方を見ていると、どろどろした情念こそが人間のありかたではないかということもまたつきつけられるのです。
終盤、物語が進行していくにつれ、さらに、人を愛することの意味というものが観る者に重くのしかかってきます。といっても、小難しい映画ではなく、おそらく邦画史上もっとも「お★ん×」とう言葉を連発しているなど、随所に笑いもあるのだけど、それもまた人生の一断面なのでしょう。
登場人物は脇役にいたるまで素晴らしい出来栄え。安田は代表作といえるでしょうし、ナッツ・シトイもフィリピンでは若手実力派でしょうが、片言の日本語でよくがんばった。伊勢谷のくずと矜持のあいまった小悪党も彼にしては新境地でしょうし、なんといっても木野花の、古き良き日本の母親の負の部分をいっきに背負ったような毒親ぶりが白眉です。そして、夏と雪山の農村の対比をうつした撮影、美術、エンディングのテーマ曲にいたるまでの音楽などスタッフも完璧。ただただ見終わった後溜息をつくしかありませんでした。
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