作品情報 2018年日本映画 監督:松本和巳 出演:内山理名、長谷川葉音、木村祐一 上映時間:98分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:ヒューマントラストシネマ有楽町 2018年劇場鑑賞242本目
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【ストーリー】
シングルマザーの愛美(内山理名)は元夫のDVに耐えかね、11歳の娘エミリー(長谷川葉音)と故郷の北海道・ニセコへ戻ってくる。しかし、シングルマザーに世間の目は厳しく、なかなか仕事がみつからない。
実は愛美も幼い頃、シングルマザーの実母、実幸(西川可奈子)から虐待を受けていた。ろくに食事もとれず、仕事もみつからない焦りに苛立つ愛美。役場の福祉課長の犬塚(石野真子)は自分もシングルマザーのため、愛美を気にかけ、生活保護を受けるように勧めるのだが…。
【感想】
冒頭からびっくりしたのが、ドローンであろう空撮で、ニセコの美しい風景をさまざまな角度からたっぷりとみせていること。北海道という地の紹介もあるでしょうが、すがすがしいまでの美しさは、せせこましい邦画とは一線を画した撮影、演出に期待が高まります。
愛美はエミリーのことを確かに愛しており、普段は仲良しの親子です。しかし、残念ながら愛することと教育、育児は違います。本当だったら助けを求めなければならないのに、プライドや恥ずかしさからそれができず、どつぼにはまっていきます。そして、努力も空回りして、他人の言葉に傷ついていきます。本当に困ったときは、正しいところに助けを求めなければならないのに、それができる人は少ない。貧困問題の一因にそうしたことがあげられます。
また、露骨に差別する人はいないとはいえ、空気のような差別感は愛美もかんじとれたところでしょう。そうじゃなくて、助けてくれる人も周りにいるのに、と歯がゆくおもいました。こういうところから、実際は悲劇の連鎖が始まっていくのです。虐待されたゆえに、どうやって子どもを育てていけばいいかお手本がなく、生きる力もない愛美を内山が好演しています。
そんななか、エミリーが近所で独り暮らしをしている変わり者の初老の男、大西(木村祐一)と仲良くなったことが救いになります。実際にはエミリーみたいな美少女が、大西のような独り暮らしの柄の悪い男の家にいったら、通報ものでしょう。ただ、映画ということもありますが、まだ、地方の集落でどこにどんな人が住んでいるかわかっていて、大西も悪い人でないという共通認識があったから、通えたのでしょう。ぶっきらぼうだけど、エミリーのことをよく見ている大西のような存在が、リアルにもいたら、救える親子も多いだろうに。
物語が説明しすぎないのもいい。終盤、あるアイテムが重要な役割を果たしますが、それの来歴、そもそも大西が何でそこにいるのか、観客の想像力にゆだねられます。愛美のパートがリアルだけに、想像を膨らませる余地があるのは心地がよい。
ただ、残念だったのが児童相談所職員の役割。紋切り型の悪役としか描かれていません。これだけ児童虐待で児童相談所の役割の重要性が問われているのに、単なる悪役として描いてしまったのは、この映画の大きな欠点でしょう。
とはいえ、大人への階段に半歩踏み出したエミリー役を長谷川がよく演じていることもあり、全体的にはすがすがしい印象。個人的には日本離れした北海道が舞台なので、もうちょっとウェットな部分を抑えめでもいいかなという気もしまし、あまり露骨に汚い部分をみせていないところもありますが、それでも、秀作であることは間違いありません。現代の貧困について、少しでも考えるきっかけになればいい作品でした。
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