2018年12月11日

鈴木家の噓

 兄の自殺という極私的なプロットを、家族とは何か、生きるとは何かという壮大なテーマまで引き上げた傑作です。脚本も手がけた野尻克己監督はこれがデビュー作というから驚きました。

  作品情報 2018年日本映画 監督:野尻克己 出演:岸部一徳、原日出子、加瀬亮 上映時間:133分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:109シネマズ川崎 2018年劇場鑑賞301本目



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 【ストーリー】
 引きこもりだった鈴木浩一(加瀬亮)が自宅で首つり自殺をした。発見した母の悠子(原日出子)はショックで意識不明の重体となる。49日目に悠子は目覚めたが、浩一の自殺の記憶が飛んでしまっていた。

 家族がそろっているのに浩一だけいないことを不審に思った悠子に、浩一の妹の富美(木竜麻生)は思わず、「お兄ちゃんはアルゼンチンにいって働いている」と口走り、悠子の夫の幸男(岸部一徳)も同調してしまう。アルゼンチンには悠子の弟、吉野(大森南朋)の工場があるのだ。医者からあまりショックを与えないほうがいいと言われた一家は、浩一がアルゼンチンで働いている演技を必死でするのだが…

 【感想】
 自殺というセンシティブな話題を時にはユーモアにくるんで、でも真っ正面から取り上げています。家族はそれぞれ自分のせいで浩一が自殺したという思いや、浩一にかまってばかりで、自分のことを他の家族が真っ正面から受け止めてくれないという複雑な思いを抱いています。親子でも兄妹でもしょせんは他人。傷つけ合うことはあるし、間合いの取り方が分からないこともあるのです。家族とはいったいどういう存在なのか、考えさせられます。

 そして、自殺という最悪の結果うまれた傷を少しでも埋め、前に進むためにどうすればよいのか。しっかりみえた富美が、実は一番大変で、両親のケアをしつつ、自分の内面に傷を押さえつけてどんどん広がっていく様子はみていてこちらの心が痛みます。一方、幸男も性風俗に通うという端から見ればどうしようもないことに固執し、後半でそれが傷を癒すために必要だったことが明らかになります。

 噓をつくのはいけないことでも優しい噓で病んだ心がパンクするのを防ぎ、でもしょせん噓だから弥縫策はいつかは破れ、この絶妙の心理の発露。半径10メートルのテーマを取り上げる邦画でも、やり方次第ではできるということがよくわかります。野尻監督も自死遺族だそうで、それだから分かる心のひだというのがあるでしょう。

 自死遺族のグリーフケア会のさまざまな遺族の様子をみると、第三者が気軽な気持ちでなぐさめをいうのが、いかに的外れか。家族の愛なんて、当事者達にしかわからないのに、偉そうにいう言葉の薄っぺらさがしみじみと伝わってきます。それを硬軟とりまぜた形でみせる演出はすごい。

 ベテラン俳優の演技合戦は見応えがあり、浩一が無理に車から降りる場面の、加瀬と岸部のとっくみあいはまさに鬼気迫るものでしたが、まだ若手の木竜が長台詞で、自分の内面を吐露する場面が何回かありますが、ただただすさまじいの一言。本当に心の傷ついた富美という女性が乗り移ったような迫力で、正直、「菊とギロチン」のときは、普通に巧いとしかみえなかったので、女優のすさまじさというものを実感しました。

 上映館がすくないうえ、客入りもイマイチでしたが、僕的には今年のベスト10上位に入る作品であり、少しでも多くの人に見てもらいたいなあ。 
posted by 映画好きパパ at 07:32 | Comment(0) | 2018年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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