2019年01月09日

家へ帰ろう

 ナチスのユダヤ人虐殺を生き延びたアルゼンチンの老人が、二度といきたくなかったポーランドに再び向かうロードムービー。ユーモアや人間の温かさを交えつつ、人の尊厳を考えさせられる良作です。

 作品情報 2017年スペイン、アルゼンチン映画 監督:パブロ・ソラルス 出演:ミゲル・アンヘル・ソラ、アンヘラ・モリーナ、オルガ・ボラズ 上映時間:93分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:シネスイッチ銀座 2019年劇場鑑賞3本目




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 【ストーリー】
 アルゼンチンに住む老人アブラハム(ミゲル・アンヘル・ソラ)は子供の頃、ナチスの強制収容所に入れられ、終戦のどさくさで脱走して、アルゼンチンに逃げてきた。90歳になり、足も悪く、子供達に老人ホームに入れられようとしたアブラハムは、その前に、最後にしなければならないことに取り組む。それは、1945年、ポーランドで自分の脱走を助けてくれた親友ピオトレックに感謝の贈り物をすることだった。

 だが、70年以上も音信不通で生きているかも分からない。トラウマから二度とポーランドに行かないと心に決めていたため、ここまでのびのびになっていたのだ。しかし、人生の最後にやらねければならないと、こっそり家を抜けだし、マドリッド行きの飛行機に乗ったアブラハム。だが、マドリッドの安ホテルで有り金を盗まれてしまう。さらに、ポーランドに行くためには、ドイツで乗り換えをしなければならず…

 【感想】
 ホロコーストを何とか生き延びたものの、家族を皆殺しにされて、戦後70年以上たってもドイツとポーランドを憎むアブラハム。ドイツやポーランドという言葉すら口にできませんでした。一方、日常では頑固だけどお茶目なところもあり、冒頭の幼い孫とのお小遣い値切り合戦は、いかにもユダヤ商人らしいユーモアをみせてくれます。この前半随所にみられるユーモアが、物語を陰鬱なものになりすぎないよう救ってくれます。ホロコーストものはとにかく見ていて落ち込む作品が多いですから、そうしたなかでは異色かも。

 さて、旅も一筋縄ではいきません。アブラハムはスペイン語とイーデッシュ(ユダヤ語)はしゃべれるものの、英語は片言、ましてフランス語、ドイツ語はまったくしゃべれません。足も不自由だし、無事にたどりつくのかと見ているこちらがハラハラするほど。盗難にあったりしますが、そこは人生うまくできているもの。要所要所で救いの神が現れます。

 スペインへの飛行機で隣り合ったレオナルド(マルティン・ピロヤンスキー)、スペインの安宿の女主人のマリア(アンヘラ・モリーナ)、そして、憎むべきドイツ人なのに、アブラハムのことを思って道案内をしてくれる若き女性イングリッド(ユリア・ベーアホルト)などなど、まったく見ず知らずの人たちが、アブラハムの旅行を手伝うというのは、老人を助けたいという善意とともに、ヨーロッパの若い世代にも、ホロコーストの重みがたたきこまれているからでしょうか。

 回想シーンはありますが、虐殺の直接シーンはありません。けれども、こんなに幸せだった家族が皆殺しにされることがアブラハムのとつとつとした言葉で語られると、映像よりもこちらの想像力をかきたて、暗然たる気分にさせられます。そして、そんななかでも続いていた幼い少年同士の友情や、アブラハムの手助けをくれた人々の善意に、人間の光明がみられるのです。アルゼンチン、スペイン、ドイツ、ポーランドとまたがるロードムービーは新年にふさわしい作品でした。
posted by 映画好きパパ at 07:07 | Comment(0) | 2019年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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