作品情報 2017年インド映画 監督:アドヴェイト・チャンダン 出演:ザイラー・ワシーム、メヘル・ヴィジュ、アーミル・カーン 上映時間150分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:ヒューマントラストシネマ渋谷 2019年劇場鑑賞238本目
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【ストーリー】
インドの田舎町に住む14歳の少女インシア(ザイラー・ワシーム)は歌が大好きで、将来、歌手になるのが夢だった。しかし、厳格な父親ファルーク(ラージ・アルジュン)は、男尊女卑の塊で自分の妻ナジマ(メヘル・ヴィジュ)にDVを繰り返していた。
インシアは音楽コンクール出場の許可を父親からもらおうとするが、ファルークは飯がまずいとナジマに暴力をふるい、それどころではなかった。しかし、ナジマはコンクールの賞品でもらえるはずだったパソコンをインシアにプレゼント。ユーチューブにブルカをかぶって素顔を隠したインシアが「シークレット・スーパースター」と名乗って、歌っている動画をアップしたところ大ブレイクする。しかし、ファルークは娘がパソコンやギターを使うのが気に喰わず、パソコンを捨ててしまう。一方、落ち目の音楽プロデューサー、クマール(アーミル・カーン)は、シークレット・スーパースターに目を付けるのだが…
【感想】
予告編だと、音楽の世界で成り上がる音楽映画と思いきや、さすがアーミル・カーン。女性の自立、親子世代の価値観の違い、どんな困難な状況でも夢を追うことの大切さ、そして何より母親の偉大な愛というものを描いています。笑って泣いて泣いて笑ってとみているこちらの情動も揺り動かされますが、終盤はずっと涙が止まらなくなっていました。それも難病のような、ホラなけというのでなく、人間として、心をうたれたというべきものでしょうか。
インドでは家父長制や男尊女卑が残っていることは日本でも伝わっています。けれども、ここにでているようにネットでアメリカだろうがどこだろうが瞬時につながる中、若い世代にとって、インドだからといって理不尽なことには我慢できません。それは、大人世代からみれば子供のワガママに見えるかもしれないけれど、でも、そう見えること自体が世代の対立になっているわけです。インシアが理不尽なことに女の子だからと黙っておらず、ずけずけという様子は頼もしい限りでした。
しかし、子供はしょせん子供。いくらネットで人気がでても、恐い父親の前には黙るしか有りません。そして、味方のはずの母親も、やはり伝統的な価値観から離れられないのでした。父親はもちろん悪役ですが、母親も乗り越えなければならない壁であるというのも、また厳然たる事実です。しかし、娘の夢を応援するのも母親の大事な役割です。インシアの出生のエピソードを聞き、そしてラストまでこの映画をみたときに、本当に母親の偉大さがわかるのではないでしょうか。
興味深かったのは一見悪役の父親も、伝統的な価値観のなかでは、決して娘をないがしろにしているわけではないのです。インシアの幼い弟グッドゥ(カビール・サジード)ばかりかわいがっていますが、インシアに勉強させるために高い授業料を払っているのも父親ですし、金持ちと結婚するのが女の幸せというのも、父親の愛情でしょう。問題なのは、その価値観が時代遅れで娘がいやがっているのに、そのことに気づけないと言うことです。ある意味父親も時代の犠牲者なんでしょうけど、いつまでも古い価値観にしがみついていれば痛い目に遭う。これはインドだけでなく、世界中で急速に起きている変化ではないでしょうか。観ている最中、日本でもヒットした韓国の小説「82年生まれ、キム・ジヨン」を思い出しました。日本でもこうした因襲に苦しんでいる若者がいるのでしょうね。
真面目になりがちな話しをうまく緩和させているのが、脇役に回ったアミール・カーンの
存在です。落ち目のプロデューサーで、インシアを利用して自分の復活を図りつつ、インシアの頼みを聞いてあげるし、音楽についても彼女の才能を見出してあげる。クマール自身、家庭を壊しており、おそらく古いインドの価値観のせいだということで暗示させられますけど、そんな彼がインシアを助けることで、自分の価値観を変えられる。しかし、アミール・カーンが好き放題演じていることもあり、笑いのパートとして安心してみられるほど。映画を重苦しい話にしませんでした。ここは同じインド映画でも「あなたの名前を呼べたなら」がちょっとしんどかったのに比べると、大きな差です。
また、インシアの同級生で、彼女に恋心を持つチンタン(ティルト・シャルマ)とグッドゥの男の子2人が、インシアに対してやさしくフラットな関係になっているのもインドが変わりつつあることを予見させてくれます。
主演のザイラー・ワシームは「ダンガル きっと強くなる」でも強烈な印象を残しており、何より歌声が素晴らしい。エンディングロールでは、アミール・カーンと彼女が別々に同じ曲を歌っていますが、その違いにあっけにとられるほどです。次世代のスーパースターと期待されましたが、もう映画界を引退しているそう。そのへん、映画と違って現実はまだまだ厳しいのかもしれません。
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