2019年08月29日

鉄道運転士の花束

 タイトルは美しいのですが、非常にブラックな話をしごく大まじめにやって、心温まる感じになるという不思議なテイストの作品。バルカン半島の映画というとエミール・クストリッツァぐらいしかしらないのですが、国民性なんでしょうかね。

 作品情報 2016年セルビア、クロアチア映画 監督:ミロシュ・ラドヴィッチ 出演:ラザル・リストフスキー、ペータル・コラッチ、ミリャナ・カラノヴィッチ 上映時間85分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:シネマカリテ新宿 2019年劇場鑑賞253本目


  
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 【ストーリー】
 イリヤ(ラザル・リストフスキー)は親子3代続く鉄道運転士。60歳のベテランだが、これまで28人も轢いてしまった記録をもっている。ある日、孤児院を抜け出した少年シーマ(パベル・エリック)が自殺しようと線路にいるのを見つけ、間一髪で彼を助ける。シーマの悲惨な境遇を聞いたイリヤは、自分が天涯孤独ということもあり、彼を養子にする。

 成長したシーマ(ペータル・コラッチ)は、イリヤのあとを継いで鉄道学校を優秀な成績で卒業する。しかし、イリヤは運転士になって人を撥ねるときのトラウマに、心優しいシーマが耐えられないと思い、シーマは運転士ではなく車両係になるよう手を回す。しかし、イリヤのような運転士になりたいシーマは…

 【感想】
 セルビアの田舎の鉄道は実際そうなのかわかりませんが、自動列車停止装置などなく、踏切で立ち往生したり、線路を歩いている人を見つけると運転士が目視で発見しなければなりません。そのため、人身事故は当たり前。運転士は罪に問われることはありませんが、葬式に花束を持って弔問に訪れます。タイトルの意味を知ると思わずブラックさにあんぐり。しかも、これまた日本では考えられませんが、運転中に飼い犬とたわむれたり、弁当を食っていたりしているのだから、事故が減るわけありません。

 日本だと人の命は地球より重く、こんな不謹慎な設定の作品は非難囂々かもしれません。しかし、内戦で多くの人を失ったセルビアでは、人間の命も軽いのか、それとももともと人命にこだわるのは一部先進国だけなのか。運転士達にはあまりにも日常になっており、カウンセリングにきた医師のほうがPTSDになってしまうほど。また、イリヤも若い頃、妻(ニーナ・ヤンコヴィッチ)を列車にはねられ失っていますし、イリヤの親友で隣の部屋に住むディーゼル(ムラデン・ネレヴィッチ)は、祖母と息子を列車事故で失っています。それでも、親子代々運転士になることを誇りに思うというのが、これまたバルカンチック。

 口が悪く、しつけも厳しいイリヤですが、だれよりもシーマのことを思っているのは、シーマ自身もよくわかっています。それでも、義父にあこがれ、義父を乗り越えるために運転士を志望するシーマ。その後、さらなる試練が彼を待ち受けているのですが、イリヤの不器用な愛情の示し方が、ブラックな話をおおまじめにやっているだけ心をうちます。

 また、イリヤたち鉄道会社の社員は鉄道基地のようなところの古い車両に住み着いており、お祝いがあるとみんなで車両基地でパーティーをやるという、3丁目の夕日的な人情味あふれるところになっています。文字通り鉄道会社は家族になっているのですね。このへんも観ている側のノスタルジーをかきたてるうまい作りです。

 また、イリヤのことを昔なじみの女性ヤコダ(ミリャナ・カラノヴィッチ)が不器用な愛情を示しているのですが、昔死んだ妻のことを忘れられないイリヤにとって、うれしいけれど新しい愛情に踏み出す自信がありません。このイリヤの複雑な思いを、セルビアの名優、ラザル・リストフスキーが見事に演じています。バルカン半島の映画独特のタッチが楽しめる佳作でした。
posted by 映画好きパパ at 07:33 | Comment(0) | 2019年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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