2019年11月17日

国家が破産する日

 1997年の韓国経済危機を、韓国銀行対策チームの女性責任者、危機を利用して大儲けしようというファンドマネージャー、危機に巻き込まれて苦しむ中小企業の社長の視点から描いた経済映画の大傑作。現在の日本にも通じる恐ろしさをこれでもかとみせつけられます。

 作品情報 2018年韓国映画 監督:チェ・グクヒ 出演 キム・ヘス、ユ・アイン、ホ・ジュノ 上映時間114分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:シネマート新宿 2019年劇場鑑賞366本目  



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 【ストーリー】
 1997年、OECD加盟が認められ先進国の仲間入りしたと国中が沸き立つ韓国。だが、東南アジアの経済危機が波及し、外資が急激に引き上げられ経済に暗い影が忍び寄っていた。韓国銀行の通貨政策チーム長、ハン・シヒョン(キム・ヘス)はこのままでは外貨準備高が枯渇し、デフォルト=国家破産になってしまうとの試算をまとめた。外資が借り換えの延長を断っていることから、残された猶予は1週間しかないと政府上層部に危機感を訴える。

 高麗総合金融の敏腕証券マン、ユン・ジョンハク(ユ・アイン)はラジオの人生相談で不況を嘆く相談ばかりなのに気づき、国の外貨の状況をチェックしたところ国家破産の危機が迫っていることを把握。会社を独立して、空売りファンドを立ち上げる。だが、ジュンハクのいうことを真に受ける投資家はほとんどいなかった。

 ソウルの町工場の社長、ガプス(ホ・ジュノ)はデパートから大口の注文が来て舞い上がる。これまで手形決済は断っていたのだが、デパートの要望に従って手形で支払いを受ける。好景気が続けば何ら問題がないはずだったのだが…

 【感想】
 政府やマスコミは大本営発表で経済に問題がないと言い張ります。それを真に受けるか、自分の目や頭で確かめるかで天国と地獄の差が出てしまいます。ユンは政府は嘘ばかりで腐敗した無能だと断言し、韓国株とウォンが暴落するほうに全資金をかけます。さらに、それだけではなく空売りファンドが大儲けしたあとは、その資金で暴落しているソウルの一等地を買いあさります。

 一方、ガプスは難しい経済の話など興味がありません。周りのムードに押し流され、今の景気はいつまでも続くと信じています。そのため自分の商売の原則を破って手形決済という危険な手法にでてしまいます。しかし、株も通貨も紙切れになってしまったら、手形ほど弱いものはありません。ここで皮肉だと思ったのは、明日の資金もないガブスに工員たちが、給料はどうなっているのかきくと、ガプスは平然と「もうすぐ払うから心配ない」と言い切ること。政府の嘘にだまされた町工場主が、自分より立場の弱い工員には同じように嘘をつく。結局、社会の一番弱い人にしわ寄せがいくことになります。

 さて、韓国政府の中にも危機感をもって対応するべきという、シヒョンたち誠実な官僚もいました。しかし、政府幹部の財政局次官のパク・デヨン(チョ・ウジン)は、セクハラ、パワハラめいた発言を繰り返しながら、シヒョンの提案を潰して、IMFによるハードランディングを目指します。パクは中小企業が多く、組合が強い韓国経済を大企業中心の経済に変えなければ未来がないと信じ、わざと手をうたなかったのです。

 マクロ的に見れば、パクの考え方にも一理あります。しかし、それは多くの庶民に犠牲を強いることになります。韓国の自殺が1年間で1・5倍にも増えたのです。しかも、パクは大企業中心の経済にするため、大手財閥にはインサイダー情報を流し、それによって自分の利益を計ろうとします。このへんの政経官への不審は韓国映画では強いのですけれど、その後の経済の動きをみていると、こうしたことがあっても不思議ではないと思わせる説得力があります。

 そのIMFの専務理事役にフランスの名優、ヴァンサン・カッセルが起用され、韓国をまさに征服しようとばかりの政策を押しつけます。その裏にはアメリカの圧力があることが描かれています。実際、アメリカはこれを機会に韓国市場に介入しようとして、IMFはむしろそれを制御しようとしていたという話もありますけど、このときにIMFが条件としてだした雇用の自由化と称して非正規社員への転換や労組の解体、さらに外資への制限解除などで一番利益がでたのはアメリカ資本でした。

 そして、大企業や政治家といった富めるものはますます豊かになり、貧乏なものはますます貧しくなる格差社会の固定化が実現していったのです。これは韓国に限らない話で、ちょうどそのころ、日本ではIMFにいわれたのではないのに、同じような政策を小泉政権がとっており、しかも、国民は小泉政権を熱狂的に支持しました。非正規社員が大幅に増えたことで今の日本はどうなったのでしょうか。実は20年前の韓国の話ですが、現在の日本にも通じるところがたくさんあるのです。

 緊迫感あふれる韓国政府とIMFの攻防は見応えがあります。難しいマクロ経済をここまでエンタメにできるというのは、さすがは韓国映画。そしてなにより素晴らしいのがエピローグ。
登場人物がこの20年でどう変わったのかが紹介されています。シヒョンは制作者側が、こういう官僚がいてほしかったという理想像で、実は彼女の存在は現実味がなかったりしますが、あとの登場人物の20年をみると、経済失政がいかに人心を荒廃させるかよくわかります。日本も近い将来、こうなっても不思議ではないのでは。

 皮肉なことに、格差是正を訴える左派政権の文在寅政権になって、経済指標は悪化し、ますます格差が拡大しました。その一方で、小泉政権の官房長官だった安倍首相は金融緩和で失業率を抑えるとアベノミクスの前半で大成功しています。問題は、現在の安倍内閣の政策で消費税引き上げ、財政緊縮といった、貧しいものをますます貧しくする政策にかじを切っています。果たして日本の近未来はどうなるのか、この映画をみれば一つの参考になるといっていいでしょう。
posted by 映画好きパパ at 07:57 | Comment(0) | 2019年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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