2020年02月27日

淪落の人

 「プロジェクト・グーテンベルグ」が日本人の想像する香港映画の王道とすれば、本作はごく普通の人々の情景を描いた新世代の香港映画といえましょう。香港電影金像奨でアンソニー・ウォンがチョウ・ユンファを抑えて主演男優賞をとったというのも、世代交代の象徴かも。

 作品情報 2018年香港映画 監督:オリヴァー・チャン 出演 アンソニー・ウォン、クリセル・コンサンジ、サム・リー 上映時間112分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:新宿武蔵野館 2020年劇場鑑賞54本目



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 【ストーリー】
 仕事中の事故で下半身不随となり、古ぼけた団地で一人暮らしをする初老の男リョン・チョンウィン(アンソニー・ウォン)は、介護のために若いフィリピン人家政婦のエヴリン・サントス(クリセル・コンサンジ)を雇う。

 チョンウィンは中国語、エヴリンは英語しか話せず、最初は意思疎通もままならない2人。フィリピンで夢破れて家政婦の仕事も下手なエヴリンにいら立つチョンウィン。しかし、自分の何気ない一言が彼女を深く傷つけたことをしり、深く反省する。そこから彼女の気持ちを思いやるようになり…

 【感想】
 淪落の人とは落ちぶれたミジメな人という意味で、原題もその通りです。映画は淡々としてあまり説明的な描写はないのですが、それでもかつては建築作業員として現場で信望を集め、妻や息子とも仲が良かったチョンウィンが、事故で下半身不随になったのをきっかけで家族や仕事も失ったこと、フィリピンで看護師をしていたエヴリンが、親にたかられ望まない嫁ぎ先でDVを受けていたことが、問わず語りにわかります。

 普通の人からみれば、初老の障害者と外国人メイドという下流の人間で、そういうレッテルでしかみられないのだけど、その人たちも普通に生きていて、うれしいことも悲しいことも夢もある。当たり前だけど、多くの人が忘れていることを気づかしてくれます。香港では外国人メイドが社会問題になっていますが、日本も同様の制度をとろうとしているから他人事ではないはず。

 そのフィリピン人メイドたちも、普通の女性。休日になれば同郷の友人と会い、金がないため地べたにシートを敷いて、食べ物ももちよりですが、仕事の愚痴や夢などを語ります。「雇い主の前では馬鹿なふりをしろ」「広東語はおぼえちゃだめ」とそんな生活の知恵が語られますが実は彼女たちは大卒だったり看護師だったり、香港での雇い主よりも知的レベルが上の場合あるというから何とも複雑です。

 チョンウィンの夢はアメリカ在住の元妻のもとにいる自分の息子(ヒミー・ウォン)ともう一度会うこと。けれども障害のためにアメリカに行けないと固く信じています。一方、エヴリンの夢はカメラの勉強をすること。そんな2人の些細な夢にも現実が大きく立ちふさがります。
しかし、時と共に心が通じ合うようになる2人は、何とか相手の夢をかなえさせたいと思い、実はそのことが生活の糧になっていくのです。

 大きな事件も起きないし、低予算でCGも使えず極めてオーソドックスな撮影でしたが、そのことがかえって、社会の隅にひっそりと暮らす2人をうつしだしているよう。チョンウィンを気に掛ける後輩(サム・リー)はじめ、彼らの周りにいる人たちも、平凡だけど心優しい人が多い。そういう人間関係って、経済的なことや地位よりもはるかに人間にとって大事なこともあります。

 といって、あまりまじめすぎるわけでもなく、香港の四季のうつりかわりをたのしめるほか、チョンウィンが日本のアダルトビデオをみているところをエヴリンにみつかりあたふたすしたり、エヴリンに広東語を教えるといってわいせつな言葉を教えたりと、ユーモアも交えています。見終わった後、心地よさに包まれることは間違いないです。

 アンソニー・ウォンは反政府デモを支持したため、中国政府からにらまれて中華の映画界から実質追放されています。そんな彼の主演作が日本でみられるのは今後、めったにないかもしれません。そんな彼もノーギャラで出演しているとか。そうした経緯もまた、本作を映画館でみたほうがいい理由といえましょう。
posted by 映画好きパパ at 07:40 | Comment(0) | 2020年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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