2020年03月04日

スウィング・キッズ

 予告編から「サニー 永遠の仲間たち」でみせたカン・ヒョンチョル監督の軽快な青春音楽映画と思いきや、やはり朝鮮戦争を扱っただけあり、結構血なまぐさいシビアな部分もあって、重い題材をエンタメとしてとる韓国映画のすごさをみせつけられました。

 作品情報 2018年韓国映画 監督:カン・ヒョンチョル 出演 D.O.、ジャレッド・グライムズ、パク・ヘス 上映時間133分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:シネマート新宿 2020年劇場鑑賞61本目


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 【ストーリー】
 1951年、朝鮮戦争の米軍巨済捕虜収容所で新任の所長(ロス・ケトル)は対外イメージ向上と西側の文化を捕虜に伝えさせようと、捕虜たちにタップダンスチームを作らせることを計画。タップダンスの得意な下士官ジャクソン(ジャレッド・グライムズ)に、メンバーを集めるよう命じる。

 収容所内でもっとも問題を起こす北朝鮮軍の若い兵士ロ・ギス(D.O.)ら捕虜3人と、英、中、韓、日本語をこなせる地元の貧しい少女ヤン・パンネ(パク・ヘス)を含めた4人が選ばれた。だが、収容所内では北朝鮮捕虜によるゲリラ活動が行われており、ロ・ギスたちも西側のダンスが好きだとばれたら命の危険があった…

 【感想】
 タップダンスなど聞いたこともなかった北朝鮮の捕虜たちが、ジャクソンの踊りやジャズにひかれてどんどんはまっていく様子は音楽映画の王道です。最初は下手で喧嘩ばかりしていたのに、国境を越えた音楽のもとに、国籍、性別、身分を超えて集まっていく姿は胸が熱くなります。流れる音楽も「シング・シング・シング」のように「スウィングガールズ」でおなじみの曲もあったし、思わずこちらも足でリズムをとりたくなるほど。

 しかし、同時に戦争の血生臭さも出ています。捕虜になっても北朝鮮の思想を信じる者もいれば、反共に転じるものもおり、捕虜同士での流血事件は堪えませんでした。本作でも戦争映画っぽい、結構えげつないシーンがあります。また、パンネも外人相手の街娼のようなもので、通訳として給料をもらうので体こそ売りませんでしたが、収容所の周りのバラックで幼い弟妹たちと貧しい生活を余儀なくされています。戦争が軍人だけでなく、生き残った民間人もどん底に落とすということがよくわかります。

 また、ジャクソンもまだ黒人差別の激しかった時代に黒人ということで、軍隊での立場も微妙でした。このへんの人間関係がよく現れており、白人である収容所の幹部たちからすれば、東洋人は人間以下のサルだし、黒人もそれと大して変わらないわけです。こうした虐げられるものたちが、互いに傷つけあったあげく、支配階層から弾圧されるというのは、身もふたもないけれど、現実にあったこと。前半の爽快さが後半になってどんどん不穏な感じになっていく展開はなんともうまいです。

 共産主義は悪役だけど、差別的な西洋の資本主義も悪役であり、イデオロギーにとらわれた現実をダンスで打ち破ろうというのは、若者に与えられた特権とエネルギーなんでしょう。しかし、映画の時代から70年たった今でもイデオロギーにとらわれているのは変わりません。この何とももどかしい現実を、映画を見終えた後突きつけられます。

 ジャレッド・グライムズはブロードウェーのダンサーであり、華麗な足さばきはほれぼれとみとれてしまいます。また、新人のパク・ヘスの清潔感も、生意気だけど根は優しくて家族思いというパンネの役柄にぴったりでした。しかし、なんといってもD.O.の青春がはじけたような躍動感は見ごたえがありました。別の世界線があったら、としみじみ考えさせられます。
 
posted by 映画好きパパ at 08:27 | Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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