2020年03月05日

名もなき生涯

 映像美で知られる鬼才・テレンス・マリック監督が第二次大戦中にヒトラーへの忠誠を拒否した男性の生涯を取り上げました。抽象的な作品のイメージがあるマリック監督ですが、本作は非常にわかりやすかったです。

 作品情報 2019年アメリカ、ドイツ映画 監督:テレンス・マリック 出演 アウグスト・ディール.、ヴァレリー・パフナー、ブルーノ・ガンツ 上映時間175分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:TOHOシネマズ川崎 2020年劇場鑑賞64本目
 


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 【ストーリー】
 1943年、オーストリアの山間の小さな村で農業を営むフランツ・イェーガーシュテッター(アウグスト・ディール)は、戦争に懐疑的だった。徴兵令状が届き、フランツは召集されたがヒトラーへの忠誠を拒み、逮捕される。

 妻のファニ(ヴァレリー・パフナー)はフランツのことを理解し、手紙で励ます。だが、狭い村で残された家族は村八分に遭い、親族からも非難される。一方、フランツが軍事裁判にかけられることになり…

 【感想】
 3時間近い上映時間で、細かい農作業や獄舎での日常が積み重ねられているのに、不思議と見入ってしまいまったく退屈しませんでした。山村の美しい風景もそうですが、農民たちが草を刈り、家畜に餌を与え、干し藁を作るといった何百年も続く作業が、ただそれだけなのに本当に美しい。

 でも、美しい場所に住んでいるから人間の心も美しいわけではありません。戦争に反対したことで孤立していくファニの様子は、実話がベースなだけに心が痛みます。唾を吐きかけられたり、子供に石を投げつけられたり。村人からすれば自分たちの秩序を乱すことは、農作業でつながりの深い共同体として許されない行為なのでしょうし、戦死した遺族からすれば、戦争に大儀がなければ死んだ人は犬死だと受け取られてしまいかねません。それでも、あそこかまで村八分にしなくてもと思えますし、それでもフランツのことを信じるファニとの絆の強さが、これまた美しかった。

 第2次大戦のドイツは完全な侵略戦争で、しかも米英も同じキリスト教国なわけです。同じ神を信じているのに、戦争で成果を得られるよう神に祈るのは矛盾しているようにみえます。しかも、キリスト教は「汝殺すなかれ」と教えているわけですから。ドイツもオーストリアも教育レベルは高かったでしょうに、貧しい農夫のフランツが戦争のおかしさに気づき、神の教えに最も忠実だったというのは皮肉に思えてなりません。

 フランツが死刑にならないよう、弁護士や神父だけでなく、軍事裁判の裁判長(ブルーノ・ガンツ)ですら、口先だけでいいからヒトラーに忠誠を誓うようにとアドバイスします。彼らも、ヒトラーがおかしいと内心思っているわけですから、こんなことで善良なフランツを死刑にしたくないわけです。「フランツが拒否しても、世の中何も変わらないから」と説得します。

 けれども、神を信じるフランツにとって、自分の行いが神にどう評価されるかが一番大切であり、命よりも信念に殉じるということが人生の目的でした。金持ちが天国にいくのはラクダが針の穴を通るより難しいと聖書にあるけれど、もし、キリスト教の天国があれば、フランツやファニしかいけないのでは。そんなことすら考えさせられました。

 世界のあちこちで戦争や紛争が起きており、多くは宗教がからんでいます。いったい神とは人間にとって何なのか、この映画をみると真剣に考えたくなります。
posted by 映画好きパパ at 20:02 | Comment(0) | 2020年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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