【ストーリー】
数学の天才だが成果が出ず、高校の数学教師として冴えない生活を送っているソッコ(リュ・スンボム)。隣人で、近所の弁当屋で働く女性ファソン(イ・ヨウォン)と話すことだけが、彼の支えになっていた。
ところが、ファソンにDVを振るっていた元夫のサンジュン(キム・ユンソン)に襲われ、ファソンと同居の姪ユナ(キム・ボラ)は正当防衛から彼を殺してしまう。ソッコはファソンたちのために、完璧なアリバイを創りだす。一方、捜査本部のミンボム刑事(チョ・ジヌン)は、偶然、ソッコの同級生だった。彼は動機があるファソンが犯人ではないかと、疑うのだが…。
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【感想】
基本的に殺人の動機やトリックは日本版と同じ。ただ、湯川が登場しないことにより、謎解きよりも、登場人物の心情にそった切ないラブストーリーがメインとなりました。パン・ウンジン監督は女性らしい丁寧な心理描写と、普段はくすんだリアルっぽいライティングをしながらも、いざというとき美しい夕景のカットを入れるなど、2作目とは思えないうまさ。特に多くの韓国映画の欠点ともいえる、無駄にうるさい、汚いといった描写がないのもうれしい。大人の耐えうる恋愛ドラマに仕上がってます。
さて、湯川がいないことでほかにも利点がありました。日本版だと、湯川役の福山雅治に対抗するだけのオーラを持つ堤真一が犯人役に起用されました。それによって2大スターの競演という形になり、モテない男のメークをしても、堤のスターオーラは隠せず、どうしても、作り話感が否めませんでした。演技も大仰ですし。
しかし、本作はリュ・スンボムはどちらかといえば地味な演技派だし、チョ・ジヌンも脇役専門であり、リアルさでいえばこちらに軍配があがります。社会から疎外された数学者が、なぜ、究極の純愛をささげるのか、というのがよく理解できます。もう一つ理由があるのですが、これはネタバレになるので、この文章の末尾で。
ヒロイン役のイ・ヨウォンは「光州5.18」しか知らなかったのですが、理不尽なできごとを耐え忍ぶ女性というのにぴったりですね。日本版の松雪泰子が、どちらかといえば普段強い役が多いので、容疑者Xの役柄に違和感を感じてしまいました。この点、イ・ヨウォンの清楚さというのは、理不尽な不幸と、人間の弱さを感じさせるナイスキャスティングだと思います。★★★★(シネマート六本木)
以下ネタバレ。
湯川が出てこなかった理由として、彼が名探偵だったということがあるでしょう。名探偵はどんな難事件も快刀乱麻に解決しなければならない。しかし、ごく普通の刑事には、そうしたハードルはありません。したがって、それが賛否分かれそうなラストになったのだと思います。