2020年05月04日

日本の悲劇

 非常に作家性が強いうえ、社会性があるテーマで好き嫌いは分かれるでしょうが、私は21世紀前半の日本の暗部を描いた傑作だと思います。経済の好転や東京五輪によるムード上昇などで、こうした悲劇が過去のものになればいいのですが。

 【ストーリー】
 肺癌で余命わずかな不二男(仲代達矢)は病院を抜け出して帰宅した。家には会社をリストラされ鬱病になり、妻子にも逃げられた義男(北村一輝)が、不二男の年金をあてにしながら、一人で暮らしていた。

 翌日、不二男が自室のドアを中から釘で打ち付け、部屋に閉じこもった。「自分をこのまま死なせて、そのことを外部に知らせないで、お前は年金を受け取ってくらせばいい」と義男に告げる。義男は馬鹿なことはやめるようにというのだが、不二男は部屋から出てこない。



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 【感想】
 いま、日本の多くの人が、か細い糸の上を歩いているといえます。リストラ、鬱病、家族離散と義男に起きる出来事は不幸のてんこ盛り(そのうえ義男の妻子は東日本大震災で行方不明になっている)ですが、一歩間違えば、大多数の人に起きても不思議ではない悲劇。これを、自分に置き換えられて見られるだけの想像力があるかどうかが、この映画への思い入れにつながるでしょう。

 日本の経済が好転しなければ、年金財政はものすごく厳しくなり、ごく普通の生活をしている人でも、老後は破産するか生活保護に頼らざるを得なくなります。また、中年の引きこもりが全国で40万人以上現実にいます。この人たちは親がいなくなったらどうなるでしょうか。ありきたりのストーリーなどとしている評論家もいますが、この問題に真正面から取り組んだ映画を見た記憶がありません。鬱病を取り扱った作品だって、家族は見捨てないで支え合うという、心優しいものばかりですから。

 義男はつい数年前までは、妻子がいて、マンションを購入して、バリバリ働くサラリーマンだったわけです。まさか、自分がこんなふうに転落するとは想像もしなかった。ささいな掛け違いがあっという間に続いていく。それでも、ハローワークにかよって現状を変えようという意思はあります。けれども、厳しい現実の前に空回りばかりで、無力感に苛まれていきます。

 不二男のとっている行動は歪んだ愛情です。この映画のモデルとなった「消えた年金受給者騒動」が明らかにしているように、いつかはばれて、そうなったら義男は犯罪者として罰せられるのですから。けれども、あまりに切羽詰るとこうした冷静な反応はできず、目先のことだけで精一杯。義男のセリフにありますが、月6万円で暮らしながら職探しをしてもうまくいかない人生を送っている子供を育てた親の悔恨と、親心があふれてしまいます。そして、義男もそのことをしって、なおかつ自分自身に自活できる能力がないことを知っているから、口では「やめろ」といっても、無理に部屋に踏み込むことをしない。2人とも自分がおかしな行動をしていると知りつつも、他に手段がない悲劇。

 大部分がモノクロ、10分近いワンカットの長回し、屋内だけの撮影と演劇的な手法をとっています。音楽もないため、退屈したという感想も理解できます。それでも、仲代、北村の演技合戦は映画ファンなら見逃せません。進撃の大御所仲代はあえて大げさな演技を封印して、背中や、アップの表情で演技する一方、北村が泣く、喚くとその分を引き受けて好対照になっています。正直、チョイ悪モテ役の多い北村が、こんなに情けない中年男にはまるとは思ってもみませんでした。義男の妻役の寺島しのぶ、母役の大森暁美は出番は少ないけれど、どこにでもいそうな家族をくっきりと浮かび上がらせています。

 説明的なセリフが多いとか、引きこもってトイレはどうしたのかとか、突っ込む部分もないわけではないですし、どうしても、役を演じているという感じは、私の好みではないのですが、それらを差し引いても、現代の日本を映し出した、本当に映画らしい映画といえるでしょう。ラストに監督は希望を込めたといいますが、どうみてもあれは悲劇を公開するものとしか思えませんでした。★★★★(渋谷ユーロスペース)
【2013年に見た映画の最新記事】
posted by 映画好きパパ at 21:07 | Comment(0) | 2013年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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