2020年05月13日

地獄でなぜ悪い

 近年、残酷な凶悪犯罪が多発しています。三鷹の女子高生ストーカー殺人の容疑者は、アニメオタクだったと週刊誌などに書かれています。映像が青少年の心に与える影響は大きく、人の命をゲームのように扱う風潮は憂うべきものです。映画関係者もそういうことを考えながら作品を撮影する必要があるでしょう。映画愛とは製作者の映画への愛だけではなく、観客の映画への愛も呼び起こすものでなければいけなく、涙や感動が求められていでしょうから。また、プロがお金をとって興行する以上、勢いなどでごまかさず一定レベルの品質は保つ必要もあるでしょう。その意味で、本作に拒絶反応が起きている人が出ているのは十分ありうるべきことでしょう。

 【ストーリー】
 暴力団組長武藤(國村隼)は、妻のしずえ(友近)の出所を10日後に控え、焦っていた。しずえは、武藤を襲おうと自宅を襲撃した敵対組織のヒットマンを全滅させ、過剰防衛で10年間刑務所に入っていたのだ。武藤は、妻の出所祝いに、ひとり娘で女優のミツコ(二階堂ふみ)の初主演映画が公開されると話していた。ところが、ミツコは撮影現場から男と逃走。映画会社を首になったミツコのため、武藤は自分たちで映画を作ろうと決意する。

 男に逃げられたミツコは通りがかりの純朴な青年公次(星野源)に1日だけ恋人のふりをしてくれと頼み込む。だが、武藤の手下に2人ともつかまり、公次は殺されかける。機転を利かせたミツコは、公次が映画監督で、自分が主演の大傑作を計画中だと嘘を付き、喜んだ武藤は直ちに映画作りに着手するよう命じるが、公次は映画など作ったこともない。

 ボンクラな映画少年がそのまま大人になった平田(長谷川博己)は、映画史に名を残す大傑作の監督になるのが夢だった。しかし、その夢を果たせないまま、年だけを重ねていった。偶然、平田を知った公次は、彼に映画作りを頼む。平田はなんと、武藤組と敵対組織の池上組の抗争を撮影して、ミツコ主演の映画にしようと計画。しかも、池上組長(堤真一)は、だれにも内緒にしていたが、女優ミツコの大ファンだった。かくして、出演者もスタッフもみんなヤクザで、本物の殺し合いを撮影するというとんでもない映画作りが始まった。



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 【感想】
 「世の中には二種類の人間しかいない。この映画を楽しめる者と、楽しめない者だ」

 つい先日、「そして父になる」を今年のベスト候補とかきましたが、訂正します。「地獄でなぜ悪い」がダントツのベストです。ただし、冒頭に書いたように、ものすごく拒絶反応があることも理解できます。世の中の良識派とか、PTA的発想の人からは絶対に許せない作品でしょうね。それでも、僕にとっては今年のベストです。映画とは発想の豊かさを競い、表現と情熱がほとばしるべきものだと思っていますから。正直チープな絵づくりですが、そんなものを吹き飛ばす怪作です。

 タイトルロール上は國村が主演で、さすがの貫禄をみせており、トメの堤真一も顔芸含めて芸達者ぶりをみせていますが、実質的な主演はミツコでした。まさか二階堂ふみがこんなに色っぽく、エロス満載の女優に変身できると思わなかった。ドラマ「Woman」のジメジメしたメンヘル娘ですよ。そういえば、「Woman」の主演は満島ひかりで、奇しくも園子温監督の新旧ミューズの競演となったわけですが、女性をこれだけエロっぽくとれる監督はほかに思いつきません。子供時代(原菜乃華)のとてつもない美少女ぶりとあわせて、いやはや、色気とはズバリ、ビッチ感だなと妄想してしまいました。

 もちろん登場人物はミツコにメロメロ。親バカの両親はもちろん、子供時代のミツコと運命的な出会いをしてから、ミツコラブに狂ってしまった池上、ヤクザの抗争に巻き込まれた一般人なのに、彼女のために命をはる公次。そして、彼女をミューズとして美しく撮ることに情熱を燃やす平田さえも。

 その平田がもうひとりの主役で、これは園監督自身を投影しているのでしょう。とにかく映画が好きで好きでたまらないのですが、それは独りよがりで、だれからも相手にされない。だって、ヤクザの抗争をとったって、今時、そんなものが傑作になるわけないでしょうし、本物の才能があれば、とっくにデビューしている年齢でしょうから。しかし、目の前で人が死のうと、照明の方が大事。カメラマンが撮影中に撃ち殺されても、カメラポジションをほめる。知性派二枚目役の多い長谷川が、実に生き生きと映画史上に残る映画バカを演じています。演劇畑出身だけに、ハイテンションな長ゼリフもものともしません。

 うれしいかったのが、平田の盟友で日本のブルース・リーを目指していたアクション俳優の佐々木役に坂口拓がキャスティングされていること。佐々木は、一度は現実に目覚め、映画の夢を捨てて平田の前から立ち去ります。しかし、平田が一生に一度のチャンスにめぐり合うと、何もかも投げ捨てついていきます。演じる坂口は日本を代表するアクション俳優ですが、現在の日本ではアクション映画そのものがマイナー扱いを受けており、メジャーになりきれませんでした。今年、俳優を引退した彼の現実の姿が、佐々木とオーバーラップして、とにかくうれしい。

 また、園監督の往年のミューズだったつぐみも、出演時間は短いながら、印象的な役で出ていました。彼女も映画界を離れ、AVに行ってしまってどうなるかと思ったけど、こうしてスクリーンで見られたことがなんともうれしいです。このほか、神楽坂恵、でんでん、諏訪太朗、渡辺哲といった最近の園組の常連の他、成海璃子が結構印象に残る役どころででてきます。そういえば彼女も映画マニアで有名ですね。

 ストーリーは、そんなアホな、というものです。しかし、「仁義なき戦い」「キル・ビル」「ニューシネマパラダイス」「シャイニング」といった古今東西の映画愛に溢れた作品。クライマックスのアクションシーンは、まさにキル・ビル的なとんでもないもので、何人死んだのか分からず、それこそ血糊がプールいっぱいぐらい必要だったのではないでしょうか。その宴を強制的に終わらせるのが警察というのも、深読みすれば、現実の表現の自由の危機を浮き彫りにさせているのかもしれません。冒頭に書いたような良識派の意見が世の中ではどんどん主流になってますけど、ひとりの親として、子供は完全に殺菌するよりも、ある程度、雑菌に触れたほうが、強い子に育つと思ってますよ。

 冒頭から流れる電波ソング「全力ハミガキ、レッツゴー♪」が、頭から離れません。予告編にもあるので、ぜひ聴いてみてください。そして、賛否両論あるラストは、僕にとって感動的でした。たった一つのことでも完全に成し遂げられた人間というのは、たとえ死んだとしても、なんとうらやましい存在なのでしょうか。僕にはそんなことは無理なので、映画を楽しむしかないのです。★★★★★(TOHOシネマズららぽーと横浜)。
【2013年に見た映画の最新記事】
posted by 映画好きパパ at 07:00 | Comment(0) | 2013年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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