ソマリアで実際に起きた海賊事件を映画化。英国出身のポール・グリーングラス監督らしく、海賊を一方的な悪として描いていない視点は共感が持てます。アクション映画としても、ハラハラさせられる一球のものでした。
【ストーリー】
2009年4月、アフリカ沖を航行していた貨物船「マースク・アラバマ号」はソマリア人海賊のグループに襲撃される。船長のフィリップス(トム・ハンクス)の指示で、一度は脱出に成功するものの、ムセ(バーカッド・アブディ)をリーダーとする4人に、船を乗っ取られてしまう。
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【感想】
冒頭、アメリカの自宅から出発するフィリップスとその妻(キャサリン・キーナー)の会話から映画が始まります。そのなかで、現在は大変な時代で、子供たちはサバイバルしなければならない、と嘆くシーンがあります。実際、世界一の金持ち国だから幸せだった時代はとうにすぎ、利益第一、ちょっとでも失敗すればリストラ。映画でも、海賊を恐れて迂回を提案する船員とのあいだで「命の危険があるほど給料はもらっていない」「それを覚悟で船に乗り込んでいるのだろう、嫌だったら降りろ」というやりとりがあります。
安全のために迂回をしたり、あるいは武装警備員を載せていれば、海賊に乗っ取られる可能性は低くなります。けれども、経費節減第一で、多少のリスクは承知の上で突っ走っています。一方、続いて、貧しいソマリアの漁村で、海賊にスカウトにくる一団の描写があり、常にサバイバルが続いているソマリアでは、命がいかに軽いものかがわかる描写となっています。米国人が人質になっただけで、空母やら特殊部隊やらが投入され、海賊は平然と撃ち殺すという意味では、人の命は平等という言葉がいかにまやかしか、この映画はよく表しています。
ムセとフィリップスのやり取りも興味深い。ムセは自分たちは漁民だったのに、大国の漁船が大量漁獲して資源が枯渇したから、生きるために海賊をしている、自分たちはアルカイダではないと訴えます。そういう意味では我々日本人も、アフリカの資源を乱獲したもので生活しているうえ、大量の食材を食べ残すなど、無駄な行為をして、アフリカの漁民を苦しめているわけで、地球のグローバル化の負の側面を実感させられました。さらに、海賊もソマリアの将軍の手先でしかなく、奪ったカネはそのままピンハネされてしまいます。まだ子供の海賊がいたり、英語ができるムセが自分の夢はニューヨークに行くこと、などと語るのは何ともやるせなくなります。
そういう社会的な側面を抜きにして、アクション面もリアル志向で面白い。海賊が船を乗っ取るシーンでは誰が犠牲になるかヒヤヒヤしました。また、米軍の本物の駆逐艦で撮影し、海軍特殊部隊も退役した経験者ばかりをそろえ、まさに実際の現場はこうだった、と思わせるシーンばかりでした。米軍の技倆というのはほんとうにはんぱない。
バーカッド・アブディをはじめ海賊を演じているメンバーはみなソマリア出身で、演じるのはこれが初めてという大抜擢。ギラギラとした目つきなど、まさに本物の海賊としか思えないほどで、トム・ハンクスと堂々渡り合っていました。この緊迫感を味わうためだけでも、映画館で見るべき作品でしょう。★★★★
2020年06月04日
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