2020年07月12日

許された子どもたち

 少年犯罪を題材にした内藤瑛亮監督の意欲作。前作の「ミスミソウ」であったカタルシスすら甘いと思えるハードな展開に、コアな映画ファンが騒然としているのもわかります。

 作品情報 2020年日本映画 監督:内藤瑛亮 出演:上村侑、黒岩よし、名倉雪乃 上映時間131分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:チネチッタ川崎 2020年劇場鑑賞111本目



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 【ストーリー】
 中学一年生の市川絆星(上村侑)は、クラスメイトの倉持樹(阿部匠晟)をいじめたあげく、川原で手製のボウガンを試しているうちに殺してしまう。犯行を自供した絆星だったが、母親の真理(黒岩よし)に犯行を認めないようといわれ否認に転じる。

 さらに、警察の捜査が強引だったことを弁護士につかれ、少年審判では無罪に相当する不処分になる。自由の身になった絆星だが、ネットで個人情報が流出し大バッシングを受ける。

 【感想】
 前作のミスミソウではえぐいいじめっ子たちを、いじめられていた美少女が片っ端から残虐な方法で復讐していくということで、いじめっ子たちが命を落とすのに、観客はカタルシスをえていたわけです。ところが本作はいじめっ子である絆星が主人公で、法律的には許されたのに、ネットで個人情報が流出し、自宅に落書きされるは親は仕事を首になるは、社会的制裁をうけまくります。

 映画が撮影されたのは3年前ですが昨今のコロナの自粛警察のような自分たちが正義と思っている人たちの醜さがしっかり描写され、先見の明を感じました。同時に、ミスミソウでカタルシスをえたお前も、結局は正義のもとに加害者をどうしても良いとおもっている連中と同じ穴の狢だよと、刃をつきつけられたようです。

 また、警官、弁護士、裁判官、教師は彼ら彼女らの主観的に見ればまじめに仕事に取り組んでいます。けれども、はたから見れば、明らかに事態を悪い方へとねじまげてく。警官は正義のために問題のある捜査をしていいわけない。弁護士は弁護人の利益を考えるわけだけど、まだ少年が犯行を認めているのに、嘘をついてまで無罪にしてはいけない。それによって、本人の更生も贖罪もできず社会からのリンチにあってしまったのだから。裁判官も事務的に手続きをするだけで、被害者遺族の心情を無視している。教師もいじめはよくないというステレオタイプの授業をしようとして、かえって被害者にも落ち度があるというふうにクラスのみんなに思わせてしまう。でも、本人は自分は精いっぱい仕事をやったと思っているのだから始末に悪い。

 親もそうです。真理は子供を守ろうと思っているのだけど、それはひとりよがりの猫かわいがりな愛情で、悪いことをしたときには罰を与えなければならないということがわかっていない。ただ、キャッチコピーに「あなたの子どもが人を殺したらどうするか」、というのがあるけれど、じゃあ、はなから子どものいうことを信じないで、罰を与えればいいというものでもない。この正解のないようなことを、真理というエキセントリックな配役で納得させられそうになるけど、でも実はそうでないことを突きつけられる。

 そして、ネタバレになりそうですが、誰に許されたのか、誰に許されなかったのか、映画では実に深みのある内容になっています。よくあるパターンだと、絆星が謝罪して、遺族が許さないけど受け入れるというところなんでしょうけど、そんなに現実は甘くない。映画のタイトルロールで、少年犯罪に関する本がたくさん出てきますが、制作陣はそれだけリアルに近づけたかったのでしょう。単純明快な解決はまっていません。

 リアルといえば、俳優陣を無名の実際に撮影当時中学生だった子供たちにあてているのもよかった。日本だとアラサーでも高校生役をやったりしますけど、本作の場合、中学生だからこその危うさ、怖さというのがよくでています。それは絆星だけでなく、ちょっとしたことで暴走していくクラスメイトたちもそうでした。つまり、これってリアルでもおかしくないよねと思わせる内容で、レーティングはあるけれど、実際に中学校の道徳教材として、全国の子供たちにみてもらいたい。

 内容は重たいですが、その分、演出はポップなところがあります。冒頭からドローンを使った空撮が効果的ですし、高速度撮影を使ったり、いじめのシーンはミスミソウ同様、目をそむけたくなるような残虐さだったり。

 上村侑の若いころの柳楽優弥を思い出させる凶暴なまなざしもいいですし、彼を気にする同級生役の名倉雪乃の中学生なのに絶望的に冷めつつも信じたいものがあると思わせる評定もすばらしい。ワークショップでいじめとは何かを考えさせ、メンタルのケアをしながら撮影したそうですが、内藤監督の演出手腕はおそるべし。見終えたあと思い出したのが、韓国を代表する名監督、イ・チャンドンの「シークレット・サンシャイン」でした。
posted by 映画好きパパ at 08:04 | Comment(0) | 2020年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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