2020年07月28日

グレース・オブ・ゴッド 告発の時

 フランスで現在も訴訟が続くカトリック神父の少年への性的暴行事件をフランソワ・オゾン監督がドキュメンタリータッチで映画化。抑制されたトーンにかえってオゾン監督の静かな怒りを感じさせます。宗教とは何か、家族とは何かを考えさせられる今年トップクラスの作品でした。

 作品情報 2019年フランス映画 監督:フランソワ・オゾン 出演:メルヴィル・プポー、ドゥニ・メノーシェ、スワン・アルロー 上映時間137分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:イオンシネマズ港北ニュータウン 2020年劇場鑑賞127本目 

 【ストーリー】
 リヨンの銀行員、アレクサンドル(メルヴィル・プポー)は子供たちの聖書教室をプレナ神父(ベルナール・ヴェルレー)が指導していることを知り愕然とする。アレクサンドルは子供のころにプレナ神父から性的虐待を受け、その傷は大人になっても癒されていなかったのだ。

 アレクサンドルはただちに教会の責任者であるバルバラン枢機卿(フランソワ・マルトゥーレ)に抗議する。長年にわたる被害者は100人以上になるが、教会は言葉ではなぐさめるものの、事件そのものを隠蔽しようとする。怒ったアレクサンドルは検察に神父を告発するが、すでに時効となっていた。警察はまだ時効になっていない被害者のフランソワ(ドゥニ・メノーシェ)に協力を求めるのだが…



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 【感想】
 フランスはカトリック国であり、子どもも幼いころから教会に通います。神父は神の言葉を教えてくれると信じているから神父に嫌なことをされても、実は自分が悪いことをして罰を受けているのではないかとか、自分を責めるようになります。さらに、親に相談しても、親が子供のことを信じなかったり世間体を気にして隠蔽に協力する場合もあります。

 そうなると子供は教会にも親にも裏切られ、その傷は大人になっても深く残ります。純真な子供に対する犯罪がいかに卑劣なのか、映画をみているだけの僕にも彼らの悲痛な心の叫びが伝わってきます。教会の性的虐待を取り上げた映画ではアカデミー賞もとった「スポットライト」がありましたが、ああいう正義の味方対権力の対決というわかりやすいハリウッド映画と違い、本作はアレクサンドルの動きをひたすらおっかけて、あえて盛り上げるような場面は使っていません。

 自分が親になったアレクサンドルは、今度は自分の子供たちが被害を受けるのではと不安になります。親に見放された彼は自分こそ子どもを守る親になろうと決意し、行動を起こします。といっても、銀行員としての生活もあり、枢機卿との間の事務的なやり取りがつづきます。この際の教会側のおためごかしが実に腹がたつ。神父は問題を起こすと、教会は遠くの教会に異動させれほとぼりをさまします。この問題ですごいのはプレナは堂々と犯行を認めているのです。捜査が難しいとかでなく、1980年代から教会は事態を把握していたのに隠蔽し続けていた。

 けれども、教会幹部だけが卑怯なのでなく、親や信者たちもうすうすは神父の問題を知りながら目をつむってました。そういうごく普通の人たちが共犯者であるというのも怖い。だって、一番信頼できるはずの家族が裏切るのです。あるいは、真実から目を背け、子供のことを守ってくれない。その結果、子どもの心ですら壊れてしまう。主題は教会の不祥事ですが、実はこれに類することは日本でもありえるでしょう。

 もう一つ、時効の壁があります。子供のころに性的虐待を受けても、それがどういう意味か理解できるのはある程度成長してから。しかも、トラウマを克服して何とか向き合うにはさらに時間がかかります。アレクサンドルも、自分の子どもが神父の教え子にならないとこんな決意は生まれなかったでしょう。日本では殺人の時効はなくなったとはいえ、児童虐待や性的犯罪も時効をとっぱらうべきではないでしょうか。

 さて、アレクサンドルが時効になり、警察が時効になってない被害者を探すようになってから、第二部というかフランソワが主人公となって物語が進みます。そして第三部は幼いころ受けた性的虐待のせいでまともな社会生活が営めなくなったエマニュエル(スワン・アルロー)がそれぞれ主役となります。信仰や家族への向き合い方も三者三様ですが、それだけに性犯罪の広がりが浮かび上がります。同時に、そんな理不尽にあっても立ち向かう人の強さ、美しさもしっかりと描かれており、ごく普通の人でもヒーローになれるのはこういうときなのだ、と勇気づけられます。

 オゾン監督はちょっと変わったラブストーリーやミステリーが得意ですが、時折剛速球を投げ込んでくる。現在のフランス映画界で見逃すことのできない監督です。
posted by 映画好きパパ at 07:00 | Comment(0) | 2020年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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