2020年08月10日

プラネテス(2003年)

 宇宙旅行が当たり前になった2075年、宇宙ゴミ(デブリ)を回収する仕事についている人たちを描いたお仕事アニメ。かなりリアルの設定の上、しり上がりにシリアスになることから、原作漫画と本作が日本SFのすぐれた作品に与えられる星雲賞をダブル受賞するなど高い評価を受けています。

 【ストーリー】
 2075年、宇宙に廃棄されたごみ(デブリ)がロケットなどに衝突すると大事故になるため、回収が進められていた。巨大企業テクノーラ社でデブリ課は、収益を全然あげないためお荷物扱いされていた。そこへ新入社員の田名部愛(声・雪野五月)が配属される。

 やる気のない課長のフィリップ・マイヤーズ(緒方愛香)、宴会のことしか考えていない係長のアルヴィンド・ラビィ(後藤哲夫)にあきれたタナベは、指導係のハチマキこと星野八郎太(田中一成)と衝突していまう。しかし、デブリ回収船長のフィー・カーマイケル(折笠愛)やハチマキと仕事をするうちに、次第にチームに溶け込んでいく。





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 【感想】
 前半は、生真面目で愛がすべてを解決すると信じているタナベが、現実と折り合いをつけているハチマキや船長の指導をうけながら、危険な宇宙で徐々に一人前になっていく様子を、時にはコミカルに時にはリアルには描いています。タナベとハチマキも最初は衝突するものの、次第に近づいていき、まあ、こんな感じで2クール進むのかとおもったら途中から話が一変します。

 一つは、宇宙はだれのものかという問題。先進国で作る連合という組織が世界を動かしており、宇宙開発で得られた莫大な利益も連合や大企業が独占し、地球では貧富の格差が拡大し、テロや暴動が頻発しています。宇宙開発よりも格差是正をを訴え、過激な手段に走るテロ組織「宇宙防衛戦線」がハチマキたちの前に大きく立ちはだかります。

 終盤からは木星往還船フォン・ブラウン号をめぐるエピソードが中心となります。人類の夢を乗せて木星へいく有人旅行。それには膨大な経費がかかり、宇宙防衛戦線の標的になります。一方、ハチマキはサラリーマンとしての日々の仕事に忙殺されるのではなく、生きて帰れないかもしれない木星探査にいく夢をかなえようと、仕事をやめて倍率数千倍の乗務員採用試験にのぞみます。

 夢をもとめるためにどれだけのものを犠牲にする必要があるのか。このストーリーでは冷徹な現実をつきつけます。過酷な採用試験のために何もかもすてるハチマキはどんどん精神が研ぎ澄まされ、壊れていきます。彼との仲が断ち切られたようになるタナベも不安でたまらなくなります。愛がすべてを解決するなんて甘いことをいっていたタナベにとって、では、愛とは何なのか、根本的なところを突きつけられるわけです。このあたりの展開はえぐい。

 さらに魅力的なサブキャラクターが多く登場しますが、とりわけ印象的なのは木星計画の開発責任者、ウェルナー・ロックスミス(石塚運昇)です。何百人の犠牲者がでようと、とにかく計画の成功しか考えず、ヒューマニティーのかけらのない冷酷な性格ですが、巨大プロジェクトを成功するためには、こういう人物こそが必要というふうに描かれています。ハチマキの行動にも大きく影響しますし、実際に世の中そうなんだろうと思わせます。

 一方で、貧しい人たちも多く登場します。普通の作品だったら貧しい人は善で、格差を拡大しようとする金持ちは悪というステレオタイプになりがちですが、実際に莫大な費用がかかる宇宙計画を成功させるためには、そんなステレオタイプではうまくいきません。かえられない巨大な不条理のなか夢をかなえるためには何が必要なのか、そもそも愛というのはどんなものなのか、濃密でスケールの大きな物語を通じて考えさせられます。

 といって、堅苦しいとことだらけではありません。重力の関係で地球にいけない月生まれの少女ノノ(こおろぎさとみ)の存在といったピュアな部分や、宇宙船内でこっそりアダルト映画を撮影しようとして、ハチマキも登場させちゃう怪しげなエピソードなど、変化球も多数です。

 放映から20年ぐらいたっても、有人の宇宙計画というのはほとんど進んでいないのは残念ですが、当時としてはあるべき未来としてかなりリアルに作られた作品です。★★★★
posted by 映画好きパパ at 21:52 | Comment(0) | アニメ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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