作品情報 2020年日本映画 監督:外山文治 出演:村上虹郎、芋生悠、山本浩司 上映時間111分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:TOHOシネマズ川崎 2020年劇場鑑賞172本
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【ストーリー】
東京で売れない俳優の岩松翔太(村上虹郎)はオレオレ詐欺の受け子などで生活をしのいでいた。故郷に近い和歌山県の御坊の高齢者施設で、入居者に演劇を教えるため劇団のメンバーと訪れた翔太は、山下タカラ(芋生悠)という若い職員と知り合う。
祭りを誘いにタカラの部屋を訪れた翔太は、彼女が男(山本浩司)に襲われているのを発見、止めに入るが逆襲される。それをみたタカラは刃物で男を刺してしまう。男はタカラの父親で、彼女は昔から性的虐待を受けていたのだ。2人はその場を逃げ出してしまい、あてもなく「駆け落ち」を始めてしまう…
【感想】
弱者が踏みにじられる今の社会の哀しみをきちんと物語化しているのはすごい。冒頭、翔太は役者としての腕を生かしてオレオレ詐欺で老人をだまします。弱者である老人を踏みにじっていて、騙されるほうを小ばかにしています。しかし、肝心の劇団では周囲からも軽くみられています。つまり、世間では翔太も弱者なわけで、内心それに気づいているだけ、より弱いものから搾取して自分のちっぽけなプライドを慰めようとする姿が実に哀れ。
そして、和歌山の高齢者施設で、きれいごととは無縁の福祉の現場をしることになります。弱者や高齢者というと性格がいいようにみえるけど、実は決してそうではない。嫌な人もいるわけです。さらに、姥捨て山のようで死とも隣り合わせ。そんななか、職員は入居者のために懸命になっているわけで、でも賞賛されることもなく、映画では直接描写はないけれど、待遇も悪いわけです。それでも必死に入居者の世話をするタカラをみて、翔太のやさぐれた気持ちも少しずつ変化していきます。
そんなタカラがさらに不幸にあわなければならない。人は傷つくために産まれたわけではないのに、弱い人ほどさらに不幸な目に遭う矛盾。通報や自首がなぜできなかったのか、理不尽ささえ感じとれる展開は本当にお見事。そして、2人の逃避行のもろく、愚かで切ない様子を突き放しつつ、でも見捨てない絶妙な距離感で追いかけるセンスも素晴らしい。幸せだった逃避行がどんなものかぜひ見てほしいものです。
監督、脚本の外山文治のオリジナルだけど、和歌山の安珍伝説をはじめとする風土を盛り込みつつ、社会の弱者への目配りも聞かせたセンスは素晴らしい。よりマイナーなインディーズの作品ならともかく、それなりに知られたキャストで日本の忘れ去られた存在にスポットをあてている作品は他にすぐにでてきません。そして、撮影の池田直矢は「岬の兄妹」も手掛けているのですね。日本の社会派カメラマンという印象ができてしまいました。
村上の運命に流されつつも悪ぶる演技はお手の物ですが、なんといってもヒロインの芋生のはかなく絶望的だけど刹那に流され、村上を翻弄するという役どころを体当たりでこなしているのがすごい。昨年、今年で一気に存在感のある女優になりました。
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