2020年09月15日

行き止まりの世界に生まれて

 ラストベルト(さびついた工業地帯)と呼ばれるアメリカの崩壊していく地域の若者が、スケボーに夢中になる自分たちの姿を12年に渡ったドキュメンタリー。単に生活を映しているだけなのに、アメリカの現代の課題を見事にとらえており、オバマ前大統領が年間ベストムービーに選出したほどです。

 作品情報 2018年アメリカ映画ドキュメンタリー 監督:ビン・リュー  上映時間93分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:ヒューマントラストシネマ渋谷 2020年劇場鑑賞175本



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 【ストーリー、感想】
 イリノイ州ロックフォードはかつては自動車産業の町だったが工場が相次いで閉鎖し、全米で最もみじめな年ランキングでワースト3位になるほど落ちぶれていた。中国系の若者ビン、黒人の若者キア、白人の若者ザックは、スケートボードを通じて親友同士になっていた。家庭内暴力や親の離婚で家族と疎遠になっていた3人は、本物の家族のような絆を結んでいて、学校をさぼって遊んでばかりいた。

 だが、いつまでも子供のままではいられない。ザックはガールフレンドのニナを妊娠させ、定職のないまま父親になった。キアは街を出ようとアルバイトなどでためた金を犯罪者の兄に使い込まれる。ビンも継父の家庭内暴力に苦しみ、カメラに救いを求めていた…。

 トランプ大統領当選の原動力となった、アメリカの滅びゆく古い町。そこで生まれ育った若者は、すでにその時点でハンディをつけられています。そもそも金持ちはそんな見捨てられた街を逃げ出し、大都会にいくか西部や南部の勢いのあるところへうつりすみます。残されたのは貧乏人ばかり。しかもアメリカの場合、金持ちほど家庭環境はしっかりしており、貧乏人ほどDVや犯罪に関係があるという歴然としたデータがあります。

 今のアメリカは人種差別反対をめぐって大変なことになっていますが、ハーバード大のパットナム教授の調査によると、金持ちの黒人は金持ちの白人に親近感を持ち、貧乏な黒人に親近感をもたないそうです。つまり、人種というより、社会階層によって分断されている。そのことが、本作の人種が違うのに似たような不幸な家庭環境に育ち、職といっても大工や皿洗いといった低収入のものしかつけない人たちの共通性をあらわしています。これはアメリカ映画では実は珍しいのではないでしょうか。貧しい黒人たちの集団とかの映画はいくらでもありますが、人種よりも経済的社会的価値のほうが人を選ぶ材料になっているということです。

 ザックもキアも気のいいやつにみえます。しかし、ビンのカメラは、ザックが自分が子供のころに虐待を受けたように、彼がニナに虐待をしていることを浮き彫りにしていきます。友人であり、カメラに撮られているのもわかっていて、それでもDVをとめられない。このへんもプアホワイトと呼ばれる社会的底辺のうっぷんがあるのかもしれmせん。

 オバマ前大統領がベストムービーに選んでるし、アカデミー賞のドキュメンタリー部門の候補になっていますが、正直、オバマ氏や映画界のようなら金持ちリベラルが見捨てたのがこうしたラストベルトの住人なわけです。今年の大統領選もトランプ氏が勝つなら、それは民主党の欺瞞が明らかになったせいだろう、本作をみながらそんなことを思ってしまいました。

 ザックだけでなくニナや周囲の人たちも、仲間の前だからということで、カメラに特別意識した様子はありません。それだけに、ラストベルトの人たちの苦悩がわかる質の高いドキュメンタリーになっています。世界一の大国アメリカで、目に見えないこんな貧困があるのかわかると、何ともやりきれない気持ちになります。
posted by 映画好きパパ at 07:22 | Comment(0) | 2020年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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