作品情報 2018年ドイツ映画 監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク 出演:トム・シリング、セバスチャン・コッホ、パウラ・ベーア 上映時間189分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:TOHOシネマズシャンテ 2020年劇場鑑賞217本
【ストーリー】
ナチス政権下のドイツ・ドレスデン。6歳の少年クルツ(カイ・コアース)は美しい叔母エリザベト(ザスキア・ローゼンダール)の影響で、芸術の才能を開花していく。だが、エリザベトは精神病にかかり、ナチスの高官でもある産婦人科の教授、カール(セバスチャン・コッホ)の指示でガス室で処刑されてしまう。
戦後、東ドイツの美大に進んだクルツ(トム・シリング)は叔母の面影を持つ女性エリー(パウラ・ベーア)と恋に落ちる。だが、エリーの父親はソ連の戦犯追及を逃れたカールだった。一方、東ドイツでは共産党の指示通りに絵を書かなければならず、自由な芸術を求めるクルツは内心激しい不満を持つ。
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【感想】
現在、ドイツの美術界で最も重要な画家であるゲルハルト・リヒターをモデルにしており、ドナースマルク監督は1か月も彼に取材したうえ、どこがフィクションを明らかにしないことを条件に映画化したそう。前半は戦争、後半は芸術とは何かについて書かれています。
ドナースマルクの取捨選択のみごとさと、演出のテンポよさははんぱありません。前半、エリザベトが収容所に送られるまでのカールとの対話は、じっくりかきこんでいて息をのむような迫力があります。その一方で、戦争でクルツの親戚、知人が次々に亡くなっていく描写は、流れるような演出で対比がものすごかったです。
そして、クルツが成長してエリーと恋に落ちるわけですが、カールがナチスの戦犯だということは2人とも知らないわけで、まさに数奇な運命という感じです。みているこちらは、いつクルツが気が付くかと緊張感を保ったままずっと画面から目が離されなくなります。そして、芸術がこういった悪質な権力者にどう立ち向かうのか、まさにこれまた数奇な運命というのがぴったりの脚本です。
現代美術は僕はよく分からないのですが、ナチスや共産党は宣伝手段としてしかみていませんでした。しかし、クルツは自分自身を表し、自分の目でみた真実が芸術だということがわかっていきます。最初は何をすればいいのかわからなかったクルツが芸術とはどうあるものなのか、わかっていく過程これまたじっくり描かれているので、素人の僕にも納得できます。
撮影も見事で、例えば空襲のシーンが芸術家の子どもであるクルツからみたらキラキラみえた場面とか、クルツとエリーのラブシーンとか、とにかくきれい。撮影のキャレブ・デシャネルは1970年代から活躍している大ベテランで、さすがのできばえ。また、マックス・リヒターの荘厳な楽曲もあっていました。芸術の秋にふさわしい大作でした。
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