2020年10月25日

スパイの妻

 黒沢清監督がベルリン映画祭の銀獅子賞を受賞しただけあって、監督のタッチがよくでています。戦前を忠実に再現するのではなく、不穏な黒沢ワールドを作り上げているのが堪能できます。

 作品情報 2020年日本映画 監督:黒沢清 出演:蒼井優、高橋一生、東出昌大 上映時間115分 評価★★★★(五段階) 観賞場所:ブルク13 2020年劇場鑑賞219本



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 【ストーリー】
 1940年、福原聡子(蒼井優)は神戸で貿易商を営む夫の優作(高橋一生)と豪勢な家で何不自由のない生活を送っていた。しかし、優作は甥の竹下文雄(坂東龍汰)と
満州旅行をしてから変わってしまった。優作たちはそこで恐るべき国家機密を入手した。

 聡子と優作の昔馴染みで津森泰治(東出昌大)が憲兵隊の神戸分駐隊長として赴任してきた。聡子に好意がある津森だが、国家機密の捜査もしていた。そして、聡子に警告へ訪れる。聡子は夫のことを信じてどこまでもついていこうとするのだが…

 【感想】 
 ポリティカルフィクションですけど、スパイの妻とのタイトル通りに聡子と優作の愛情の深さがメインのラブストーリーになっています。最初は単なる幸せな夫婦だったのが、片方が秘密を持つことで相手をどこまで信じられるかという話になっていきます。さらにミステリー仕立てに二転三転しますし、きっちりと伏線がはられているので、それが回収されるのはみていて見事です。

 蒼井と高橋は「ロマンスドール」でも夫婦役でしたが、本作の場合は、その愛情がより深く描かれています。特に蒼井がその時々でみせる表情は本当にうまい。終盤のある場面でみせた笑顔は、これまでさまざまな作品に登場したなかでももっとも美しくみえました。

 また、敵役ともいえる東出がまたやはまっています。美形だけど冷酷な表情をみせ、抑揚のない演技が憲兵という役にあっていました。津森という男が聡子にどのような感情をもっているのか、あえてみせないことで、彼の心の葛藤が伝わってくるようにみえます。

 戦前の風景や聡子をはじめとする女性陣のファッションもみとれてしまいます。とにかく雰囲気が格調高い。出番は少ないですが玄理や恒松祐里も印象的でした。ここらへんも黒沢演出のうまさがありますが、憲兵の制服とか露天商とのやりとりとか、どこか不条理なところがこれまた黒沢映画らしい。映画ない映画に戦病死した山中貞雄作品をいれたのも監督らしいかも。

 スパイ映画としての緊張感もなかなかでしたし、「あなたの普通は、他の人から批判の対象にされる」というのは、今の時代にも通じる重要なセリフだし、映画の中でも効果的に使われました。最近の黒沢作品のなかでは個人的に理解でき、気に入った作品でした。脚本に濱口竜介と野原位も加わった良さですかね。ただ、最後の字幕での後日談は蛇足のように思えました。
posted by 映画好きパパ at 07:30 | Comment(3) | 2020年に見た映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
鬼滅の刃フィーバーに沸くシネコンでひっそりと観て参りましたw

僕は映画序盤からこの福原夫妻は全然幸せそうに見えませんでした。
夫・優作役の高橋一生の笑顔も嘘っぽいし、言ってる事全部に裏があると感じてました。
中盤で夫の秘密を自らが握った事で妻・聡子が見せた笑顔の怖さ…
「これで優作さんは本当に私の物になった!」
という確信が生んだ笑顔だと思いましたね。

終盤はいつもながらの黒沢サイコホラーっぽくて大満足でした!
Posted by 西京極紫 at 2020年10月29日 12:19
福原夫妻の愛の軌跡がどんなものだったのか。
表面上の虚無な裕福さから、共犯関係になって心が通じたと
思ったら……ですからね。
ある意味高橋一生は、クリーピーの香川照之みたいなサイコパスだと
おもっちゃいました。
Posted by 映画好きパパ at 2020年10月29日 23:48
>ある意味高橋一生は、クリーピーの香川照之みたいなサイコパスだと
おもっちゃいました。

完全同意ですw
Posted by 西京極紫 at 2020年10月30日 07:23
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