作品情報 2019年チェコ、ウクライナ、スロヴァキア映画 監督:ヴァーツラフ・マルホウル 出演:ペトル・コトラール、ウド・キア、ハーヴェイ・カイテル 上映時間169分 評価★★★★★(五段階) 観賞場所:キノシネマ横浜みなとみらい 2020年劇場鑑賞222本
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【ストーリー】
ナチスによるホロコーストを逃れて東欧の農村で一人暮らしする叔母マルタ(ニナ・スネヴィック)のもとで暮らす少年(ペトル・コトラール)。ところが年老いたマルタは病死してしまい、村民から少年は迫害を受け追い出されてしまう。
身寄りをなくしてさまよう彼は、行く先々でひどい仕打ちをうけながら、生き別れた両親と会える日を思い描くのだったが…
【感想】
とにかく残酷な描写が多いうえ、心理的にもつらい場面がひたすら続き、みているこちらだけでなく、演じるペトラ・コトラールにも悪影響がでないのか心配になるほどです。激しい暴力だけでなく、男からも女からも性的虐待を受ける。モブの村人や子どもたちからもいじめられ、人間の本質は悪意でできているということを見せ続けます。
それだけではありません。ナチス兵が護送列車から逃げ出した女性を赤ん坊もろとも撃ち殺したり、ソ連兵が平和な村を襲って村人を皆殺しにしたりというシーンもあれば、少年が知り合った人が思いもよらない不幸のスパイラルに落ちていくシーンもあります。戦争のせいだけでなく、そもそも異物を排除しようとする人間のおぞましさ、悪意、さらに本能の赴くままの乱暴な性行為など目をそむけたくなりました。そして少年もむきだしの本能をみせるようになっていくのです。
そのなかでも、ハーベイ・カイテル演じる司祭は数少ない善良さをみせるのですが、その代わり力がない。病弱ということもあるけれど、ナチスという絶対的な暴力を前には個人の善良さなどはまったく無意味。さらに自分が善良がゆえに、相手も性善説にみてしまうため、悪意に気付けないというのはなんという皮肉でしょうか。
タイトルは、少年が籠にとらわれていた小鳥を空に話したところ、小鳥は白いペンキを塗られていたので、鳥の群れから異物とみなされ攻撃されてしまったことが由来。人間も鳥と同じ程度のレベルなのかと、悲しくなります。農村ならではの閉鎖的な人間関係が余計、異物排除にいくというのは現代の日本にも通じるのかもしれません。
ただ、モノクロであるがゆえの美しさは非常に格調が高いですし、なにより新星ペトル・コトラールの、どこか突き放したような冷めきったような目から逃れることができず、最後まで物語世界に没入しました。
原作者イェジー・コシンスキもホロコーストの生き残りですが、この作品を発表したのちに謎の自殺をしています。その問題作をヴァーツラフ・マルホウル監督は脚本に3年、撮影に2年という時間をかけて映画化しています。まさに衝撃作でした。
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